第103話 依存症者の告白(103)

 しかし、性欲とは一体何なのだろう? これは、なかなかに手強い、厄介な欲望である。

 先日、私はこの性欲のために泣きそうになった。それが頭をもたげる時、何故自分はこんな欲望に囚われるのか、わけわからず、無性に悲しくなったのだ。


 そもそも、欲とは何なのだろう。

 性欲は、本能だという。子孫を遺すための、アニマル的本能だという。

 すると、出世欲は、本能ではない。出世欲など、動物が持つはずがない。金欲も違う。お金は、必要な物を手に入れる媒介でしかない。


 性欲と同じ部類に入るのは、食欲と睡眠欲だろう。どちらも、生きるために必須のものである。とすると、性欲もそうなのだろうか。


 いや、べつに性欲がなくても、生きて行けるだろう。(個人としては。人間全体からなくなったら、その時代で人間の歴史が終わることになるが)

 どうも、性欲は、食と睡眠のそれに比べて、何かが絶対的に違う。食も睡眠も、摂れば身体が満足する。性欲も、目的が達せられれば同じように満足するけれど、そこにはどこか、罪めいた意識を感じさせるものがある。

 セックスの時、私の身体は満足ではあるが、胸の内にはどこか、むなしい風が必ず吹いている。


〈ヒトの、胸部を覆う骨、あの肋骨の形は「罪」という字に似ていないか〉


 あの行為の最中、われわれはまさに畜獣と化している。食と睡眠に比べ、性のそれはうるさく、みっともなく、恥ずかしい。

 もし理性が人間の叡智の賜物であるならば、あまりにも反人間的行為である。


 どうやら性欲は、子々孫々を絶やすまいとする説が、有力であるようだ。しかし、一体何のためにそんな本能を、組み込まれたのだろう。


〈真に平和な世界を、いつ人間が創造するのか。われわれは、試されているのだ〉


 空と地の間から、そんな声が聞こえる気がする。

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