第87話 依存症者の告白(87)

〈社会は、家庭から変わっていく〉


 これは、私を診てくれた小児精神科医の言葉だ。テレビで、そう言っていたらしい。


 それにしても、何も変わらなそうだ。家庭は、あってないようなものだし、なくてもありそうなものだから。


 個人個人が幸福であればいいだけの話。それで、しかし、全体が幸せになるかは、別の話。その個人と全体の鎹になるのは、形ではない心の話。


 社会がおかしい、政治がおかしい。といって、私にできることは、私にできることしかない。通りすがりに、ぶつからないよう歩き、ラッシュアワーの階段で転げ落ちないよう、気を配る。


 自殺はイケナイだの、不倫はイケナイだの、取って付けたような、かりそめの建前は、信じない。個人、ひとりは、全体、社会より、大きい、確実な存在だと思う。


〈ひとり、ひとり。そこから、始まる〉


 これを、私は疑うことができない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます