第86話 依存症者の告白(86)

 あなたに愛人がいたとする。彼女は、あなたを愛し、あなたも彼女を愛している。

 彼女には夫がいる。あなたにも妻がいる。しかし、おたがいに、愛人がいることを隠さない。とてもオープンな関係だ。


 あなたは、自分の妻が、愛人とつきあい始めてから、生き生きとしている姿を見た。

「わたしは、愛する2人の男から愛されている」そう彼女が思うことが、彼女の生活のすべてを輝かせている事実を見た。

 あなたは、その彼女を、心から祝福した。


 彼女は彼女で、あなたに愛人ができて以来、あなたが生き生きとしていることを、喜んでいる。

「今度、4人で飲みに行きましょう」

 あなたは笑って同意する。


 愛人のふたりは、それぞれ、かしこまっていた。自分は妻でない、夫でないという意識が、彼らを萎縮させていた。

 しかし、あなたがた夫妻は、心から幸せそうだった。

「きみから見て、ぼくはどう思う?」

「そうそう、このヒト、そういうところ、あるわよね」

「えーっ、わたしには、そんなことしてくれたことないよ」

「いや、おれ、このヒトの前ではこうなるんだ。だって…」

 次第に打ち解け、その場は嘘・いつわりの一片もない、自己欺瞞もない、やさしい、すべてを包み込むような空気にあふれていた。


「じゃあ、またね」

「うん、ありがとう」

 4人、心からの笑顔で店を出た。それぞれ、まるで明日からの、生きる活力を得たような足取りで。

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