第77話 依存症者の告白(77)

 先日、you tubeで、特攻兵として9回戦地に行き、しかし9回とも死なず、帰還した兵士の番組を見た。

 国のために、天皇のために死ぬことが、素晴らしかった時代。

 偶然・必然が重なって、彼は何回も生きて帰って来てしまったのだが、印象的だったのが、


「おまえは、なぜ死なんのだ?」


 という、業を煮やした上官の言葉だ。これは、


「なぜ、おまえは生きているのだ?」


 と同義であって、私は、自分が言われたわけでもないのに、しばらく動揺した。


 大江健三郎が、天皇のために死んで、英雄になることを夢見ていた青年の物語を書いていたけれど(戦争が終わってしまったので青年の夢は叶わなかったが)、死なずに生きてしまうことの、妙な滑稽さ、運命の冗談のようなユーモアを、その番組から私は感じた。


 しかし、どう見ても戦争は狂っている。戦争を起こしたのは人間だから、人間は狂うことができるということだ。

「なぜ戦争はなくならない?」という問いに、「儲かる人がいるからでしょう」と答える人もあったけれど、その前に、人間は狂える能力があるのだ。

 理性にばかり躍起になっても、狂う。本能のままでも狂う。平衡感覚を保って、なぜ生きているのか知らねども、生きているのだから生きた方がいい。

 中庸を保つこと、中庸を保つこと──

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