第74話 依存症者の告白(74)

「きみ、ひとを愛したことがあるかい?」

「あるよ」

「どうだったい?」

「まず、愛とは何か。この言葉の定義をしないと、空虚な話になる。きみ、愛する人に浮気されたことあるかい?」

「あったよ」

「怒ったかい?」

「怒ったね」

「なぜ?」

「裏切られた気分になったからだ」

「なぜ?」

「信じていたからだろう」

「どうして?」

「信じたかったからだろうよ」

「彼女を、自分のモノだと思っていた?」

「だろうね」

「浮気は、してはいけないことだと思っていた?」

「思っていただろう」


「ということは、きみは自分のことしか考えていなかったことになる。信じて、裏切られ、自分のモノだと思って、浮気はダメだといって、怒っていたことになる。そこに彼女は、どこにもいない」

「でも、愛していたんだ」

「ところが、愛していなかったのだ」


「友よ、じゃあ、きみが浮気されたらどうするんだい?」

「浮気は罪だとして、その罪を許そうとしたいね。そうしたいとする過程の中で、ぼくは自分にも非があることを見つけ出す。それから、まずその自分を許す。そうしてから、やっと彼女に微笑んで接する」

「それが、きみのいう愛なのかい?」

「うん。愛は、いつも自分から始まると思うんだ」

「それじゃ、相手のことは二の次で、きみも自分のことしか考えていないことになる」

「そうなるね」

「ばかばかしい」

「なぜばかばかしいと思うかを考える」

「やってられんよ」

「なぜやってられんかを考える」

「きりがないだろう」


「友よ、やってられん、きりがないと思うことが、彼女にもあったとしたら、どうだろう? この浮気の場合、それまできみが彼女の気持ちを考えずにいたことが、その遠因にあったとしたら? 友よ、きみも悪かったのじゃないか。相手の咎を責める前に、まず自分の思い当たる罪に向かうことが、愛の土台だとぼくは思う。そこから、彼女に届くものがある、彼女が感じ取るものがある。彼女ときみの間に、生まれるものがある。罪を許さない限り、愛はあり得ない」

「それがきみのいう愛なんだね」

「うん」

「ぼくの愛は、そんな簡単に説明できない」

「うん。それが、ほんとは愛なのかもしれないな、友よ」

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