第71話 依存症者の告白(71)

「まあ、もうムリだろうね、当分は。歴史は繰り返されるというから、あと2000年ぐらい後に、やっとソクラテスみたいな人が出てくるんじゃないかな」

「きみ、ソクラテスの何がすごいんだい?」

「生き方だね。そりゃ、堂々としたものさ。自信ってのは、彼のためにあった言葉じゃないか? プラトンによってしか知らないけど、実際にそういう人間がいたってことは、強いバックボーンになるよ、我々が生きる上で」


「ブッダも同じ時代なんだって?」

「おうよ。ほぼね。ふたりが、もし道で会って、立ち話でも始めたら… 人智の極みだね。道徳の祖、哲学の祖の会談!」

「宗教、きみ、嫌いなんだろ」

「ブッダの言ってること、読んだことあるかい? ありゃ哲学だよ。ソクラテスもブッダも、真理のために生きたんだ。弟子達が神格化しているけど、ブッダは人間として…」


「おいおい。哲学や道徳やらが、一体何の役に立つんだよ。腹の足しにはならないし、知ったところで何にもなりゃしない。ぼくらは知っているんだ、小難しい理屈を並べる無意味さを。考えないことの、素晴らしさを。こう見えても、進化しているんだぜ」


「うん、知らなくても生きて行けるね。でも、知らなくていいことなんて、ないんじゃないか。考えて、悩んで、そんな時に、過去に生きた人の知恵を知ると、嬉しいものだよ」

「必要になったら、見てみるよ」

「そうだね。そういう時にこそ、血となり肉となるよ。さようなら、友よ」

「なるべく必要とならないようにするよ。バイバイ、おじさん」

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