第63話 依存症者の告白(63)

 荒縄で縛られ、鞭打たれ、それを喜ぶ人がある。

 パチンコをする時、マゾヒストにでもならないと、やってられない感もある。

 苦痛と快楽は、ほとんど同一のものである。時間差で、苦が楽に、楽が苦に取って変わるようなもので、その源流は同じであると思う。


 SとM。私の恋人は、サディスティックである。彼女に言わせると、私に、いじめたくなる要素があると言う。他の人には、こんな気持ちにならないと言う。


 その彼女の仕方は、私の脇や首ををくすぐり、堪え切れず転がった私の足を取り、引きずって、妙な技を仕掛けてくる類いのものである。


 しかも、その力加減が絶妙なのだ。私にケガをさせないように、しかし、確実に痛がるようにしてくる。

 私は、喜んで笑う。その時の彼女が、あまりにも幸福そうなので、その彼女を見て喜んでいるのだ。けっして、他の理由で喜んでいるのではない。


 まったく、眼さえ輝かせて、彼女は私をいたぶる。攻撃を受け、逃げる私が床に転がると、動物的な動きで私に近寄ってくる。その彼女の、「生きている」表情といったら!


 ふだん私は自分の部屋でパソコンに向かい、彼女は居間で何かしている。全く会話がないというのも何だから、コーヒーをつくりに台所に行った時などに、彼女の傍に行き、その耳元に私は囁く。

「可愛いねえ。綺麗だねえ!」


 その口撃が執拗であった場合、私は彼女から髪をつかまれたり首をつかまれたりする。逃げる私は追い掛けられ、そして逃げ場を失い、転がる私に…

 そんなことを繰り返しをして、もう8年暮らしている。そして未来への不安、働かないでどうするのかという肝心な箇所には、けっして攻撃を加えない。

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