第55話 依存症者の告白(55)

「パチンコで負けてた時の方が、面白い文章書いてたわね」

 最初の妻に、そう言われたことがある。

 負けて家に帰った時、私はおとなしい。心のどこかに、いささかの火照りをもっているけれど。

 台に向かっていたベクトルが(←)、ぐるりこちらを向き(→)、私は内側を突つかれる。いささかの、いや甚大な、自己嫌悪と自責の念をもって。

 そんな精神のはたらきが、パソコンのキーボードを打つ指先に、何らかの作用を及ぼしていたと思う。

 

 ── なぜあんなに注ぎ込んだんだろう。

 注ぎ込んだのは、確かに私自身だが、その当人でさえ、理由がよく分かっていない。

(熱くなっていたからだろう)

 それは確かだが、せいぜいそれは数分か、もって30分の間で、その時間が過ぎれば、

(自暴自棄になったからだろう)

(もうどうでもよくなったからだろう)

 という別の理由に流れていく。そしてサンドのお金がなくなれば、財布を取り出し、またサンドに注ぎ込んでいる。


(麻痺していたからだろう)

(脳がやられていたからだろう)

 も、その麻痺する神経、やられた脳の持ち主である私には、まるで他人事のようだ。

 私は、どこへ行っていたのか。私は、どこに行っていたのか。分からない、分からない。


〈ワカラナイ国の大王〉


 もし今、パチンコを打って、負けたなら、面白い文章が書けるだろうか。よく、そう思う。でも、もう、やめるんだ。あの遊技場に行くことは、やめたんだ。もう。

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