第36話 依存症者の告白(36)

 奈良に住み始めたのは、たまたまだった。


 知り合った画家がいて、小説家志望の同年代の人がいて、恋人がいたのが、奈良だった。

 この場所の持つ吸引力、空気感。それから、友達。

 ふらふらと惹かれて、住み始めてしまった。


 それまでは、愛知の豊橋に住んでいた。あの地域では、朝9時から開店するパチンコ屋もあった。私はあの店に、1千万くらいは注ぎ込んだと思う。


 奈良は、鹿が平然と歩いているのも気に入った。緑も多く、なんとなく落ち着く気持ちになれた。

 東京都心の近くに生まれたせいか、コンクリートが嫌いだった。ビルやら人混みが、息苦しくて堪らなかった。


 20歳の頃、埼玉の山の方にいる友達を訪ねる途中、電車の車窓から見える雑木林に、心が弾んだ。

 田舎道の脇に生える雑草の、小さな花に感動さえ覚えた。


 何を考えて生きて来たのか、わからない。

 考えるより、「感じて」きたことの方が、大きかった。

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