第35話 依存症者の告白(35)

 家には、よくノラ猫もやって来る。いつの日か一度だけ、玄関から入って来て、二階に行って休息(?)をとった後、出て行った猫がいる。私の家は、ちょっとした隠れ家的な場所にあるので、夏はいつも玄関が開けっ放しなのだ。


 その猫を、私と恋人は「チャシロ」と呼んでいた。茶と白の模様が、絶妙な位置に配合されていて、身体の小さい、ほんとうに可愛い雌猫だった。尻尾は、他のノラに食いちぎられでもしたのか、短かった。

 顔つきに品があり、性格も良かったと思う。穏やかで、他のノラさんに出くわしても、怒った姿を見たことがない。よく毛づくろいをするのか、いつも綺麗で穢れがなかった。小さな身体で一生懸命生きているようだった。


 いろんなノラ猫が現れてはいなくなり、また現れてはいなくなった。その繰り返しの中で、チャシロはずっと、変わらずにいた。


 夜は、近所の道端に茂った白粉花の中にいるのを、よく見掛けた。

「チャシロ」と呼び掛けると、キョトンとしてこっちを見た。たまに、誰にもらうのか、ちくわを食べていたりした。


 そのチャシロの姿が見えなくなって、もう数ヵ月が経つ。

 5年前、ここに私たちが引っ越してきた時、チャシロはまだ小猫だったから、もう相当なお婆さんなはずだ。飼い猫の平均寿命が12歳なのに対し、ノラのそれは4歳と聞く。

 庭で、お座りして背中の方を毛づくろいをしていた時、コテンと倒れてしまったのを見たことがある。


 よく、ケガをして歩いていた。それでも、数日経つと、何もなかったようにシャンとして、ひとり楽しげに歩いている姿を見掛けた。


 あんなに可愛い猫だったのだから、ファンも多かったはずだ。でもチャシロは、けっして人に懐こうとせず、ノラとして生きる道を謳歌しているような猫だった。


 パチンコで負けて泣きそうな帰り道も、白粉花のそばでチャシロの姿を見掛ければ、心が和んで微笑めた。殺伐とした気持ちが、優しい気持ちになることができた。

 誰も知らない秘密の場所で、もう旅立ってしまったのか…

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