第34話 依存症者の告白(34)

 家の庭に、アナグマが出るようになって、もう1ヵ月は経つだろうか。最初は、アライグマかと思ったが、柵を上ったり、塀を乗り越えたりはしない。

 穴を掘ること、下に向かうことのみに重点をおいた、下降志向の動物であることは、その足跡から分かっていた。


 昨夜、われわれが寝静まる頃、ゴソゴソと庭から音がし、懐中電灯を照らすと2つの光る眼がこっちを見ていた。そばに寄ろうとしたら、「ブヒッ!」というような声を出し、どたばたと側溝に逃げ込んだ。

 庭を囲む側溝にはフタがなく、その姿は丸見えだった。

 見ると、何やら力なく横たわっている。しかし眼はしっかり見開かれ、こちらをじっと見ている。


「何してんの?」恋人がアナグマ氏に言う。氏は、「死んだふり」をしているらしかった。

 20秒ほど、われわれはアナグマと見つめ合っていたが、突然起き上がると、側溝から川に通じる土管の中へ消えて行った。ぼちゃん、と川に何かが落ちる音がした。アナグマは、泳ぎも堪能らしい。


 われわれはネットで、先刻見た動物は何だったのか、画像を探した。タヌキのようでもあったが、違う。ハクビシンでもない。見つけた画像で、アナグマと判断するに至ったのだ。


 氏は、家から3、40mほど離れた、斜め向かいの廃屋に住んでいるらしい。私は、ここから入ってくるんだろうと思えるところに、網を張った。

 今晩は、その網を何とかしようとしている音が聞こえてくる。何だか、気の毒に思えてくる。家の庭の土中には、氏の大好物・ミミズがきっといるのだ。


 しかし、あちこち掘り起こされても困る。沈丁花の根元など、何度も掘られたら、木が弱ってしまう。そんな、守るほどの庭でもないのだが、しかし──

 共存は難しい。私というひとりの人間の中でも、パチンコへの依存心とそれへの抑制心がせめぎ合っている。

 アナグマに、自分の姿を被らせてみる…


 穴を掘ろう。自分の中を、掘り下げて行こう。

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