第13話 依存症者の告白(13)

 その日私は、正確には覚えていないが(この時点で既に現実直視を本能的に避けていた)、4〜5時間のうちに約7万ほどを失った。財布が空になり、郵便局のATMで5万を下し、そしてまた店に入って打ち始めたのである。


 その1週間位前に、やはり5万円をあらゆる台に費やし、私は財布を空にしていた。しかし、お金を下ろして再び打ち始めると、すぐに当たりが来、思わぬ連チャンをし、換金所で13万を手にしていたのである。


 それで今回も、財布が空になった→お金を下ろした→当たる→大勝ちする、という流れになるのではないか、と期待したのだ。いや、そうなることが当然のようにさえ思えた。だから5万を失くし、新たにお金を下ろした時、私はそれほど絶望もしていなかった。


 だが、夜の8時を回り、結局当たりは来なかった。大勝ちした1週間前は、この時間から当たり始めたのに。そしてあの時と同じ行動をとっているのに!


 夢の中を生きているように、私はただ呆然と、それが義務であるようにお金をサンドに入れ、ハンドルを握っていた。

 

 時間と金銭の浪費の蓄積。打ちながら、ほとんど忘我、悔恨、焦燥、切迫、嫌悪、疲労、悲壮、いや、どんな形容もそぐわない、重い、混濁した、訳分からず積み重ね、積み重ねられたもの…ウルトラマンに登場する「ダダ」が、分身して複数になったダダが、私の全身に覆い被さってくるような重み、気持ち悪さ、そんな感覚に支配されている。


 頭か心か、身体かどこか、私という存在をつくるどこかに、当たるかもしれない望み、ほとんど消え入りそうに小さな、遠くに光る望みだけが、一点、どす黒くなった胸のうちにあったことは否定しない。絶望的な情況だったから、よけいにその小さな光にすがりつきたかったようでもあった。


 帰り道、おそらくパチンコ屋にいなかっただろう人々とすれ違う。ここは奈良で、観光客が多いのだが、カップル、一般市民、「日常を生きている人たち」とすれ違う。

 私は、自分が異常であることを自覚する。異常な世界に、異常な自分が身を置いていたことを自覚する。尋常でない、非日常の世界に、どうしてか惹かれる自分自身を自覚する。

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