第5話 依存症者の告白(5)

 その日、夜の9時を回った頃、私は店を出ようとした。

 まだ打ち続ける人々のいる正面の、自動ドアのすぐ横に中年の男がひとり、手持ち無沙汰げに立っていた。その男は、身なりがいいとは言えない恰好で、しかし気の好さそうな顔をして、伏せ目がちに微笑みながら立っているのだった。


(ああ、パチンコをしたいんだな。でも、できないんだ…)私はそう想像した。(しかし、何を待っているんだろう?)

 その男を見たのは、この一度だけだったが、忘れられない印象を私に残した。何か甘えたような微笑み、わざとらしい伏せ目。誰を待っているわけでもなく、そこから離れようとしない。

 まるで、誰かがお金をくれて、自分にパチンコをさせてくれる、そんな淡い夢を見ているかのようだった。

 

 また別の日には、私の隣りで打っていた労務者風の男が、いきなり「ああ、もうダメだ」と叫んで、台のガラスを殴りつけた。ガラスは割れ、男は席を立ち、出入り口の方へ憤然と歩いて行った。驚いたが、真に驚いたのは、その横で何もなかったように打ち続けている私自身にであった。だが、その暴君のすぐ隣りにいた婦人も、何もなかったように打ち続けているのだった。


 ある日には、やはり私の横で打っていたサラリーマンが、これは当たるだろうという強いリーチを3回、立て続けに外した。すると彼は、「ワハハハハ!」と台に向かって嘲るように、そして狂ったようにひとりで笑い出したのだった。


〈狂気と正気の狭間で。〉


 当時私は、2、3の店を行き来していたのだが、1つの店に、常にいる婦人を見かけた。朝から晩まで、ほんとうに打ち続けていた。そして彼女が当たっているところを、ついぞ見たことがなかった。その姿を見かける私は、順調にパチンコ中毒者になっていた。

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