第31話 卒業

大学にある講堂では、卒業式が行われている。壇上には、グランドピアノを弾く奏の姿があった。卒業生を代表して弾いているのだ。

彼女の指先から流れる音色は多彩だ。正に色づいてると言っても、過言ではないのだろう。彼女の音色に卒業生の中には涙を流す者がいたが、当の本人は楽しそうにピアノを弾いている。

「奏らしい……」

綾子は泣きそうになりながらも微笑むと、そう呟いていた。

成績優秀者が発表を終えると、式は滞りなく行われ、高校の校舎へと戻って行く。

桜は入学式の頃に満開になるのかな……。

奏は三年間過ごした校舎へと戻る中、桜並木を眺めていた。

「奏ー! 綾子ー! こっち向いてー!」

「はーい!」

真紀の携帯電話に、二人は笑顔で写っている。

「そこー! 戻るぞー」

担任の先生から注意されつつ、クラスメイトは楽し気に教室へ戻っていた。

来月から始まる大学生活に皆、心躍らせていたのだ。

教室では携帯電話やカメラで写真を撮ったり、卒業アルバムにメッセージを書きあったりしている。

「専攻は違うけど、また遊んだりしようね」

「うん!」

三年間一緒に学んだ彼らも来月になれば大学生となり、指揮科や邦楽科等の様々な学科に別れ、新たな人達と共に四年間学ぶ事になるのだ。

「奏、また入学式にねー」

「うん! またねー」

奏は笑顔でクラスメイトと別れると、いつもの場所で待つ杉本の元へと急ぐのだった。


「和也!」

奏は車の前で待つ、彼の名前を呼んでいた。

和也は彼女に手を振って応えていると、彼女の側をクラスメイトが通り過ぎていく。

「あっ、酒井!」

「上原、お疲れー」

「お疲れさまー、また来月からよろしくね」

「うん、またなー」

奏は酒井に手を振ると、和也の元へ駆け出していた。

「卒業おめでとう!」

和也から、かすみ草の花束が差し出されている。

「ありがとう……」

奏は花束に顔を近づけ喜んでいると、運転席で待つ杉本が声をかけられた。

「二人とも行くよー」

「はーい」

二人揃って応えると、いつものワゴン車へ乗り込んでいく。

「卒業おめでとう!!」

車内にはwater(s)のメンバーが揃っていた。クラッカーを鳴らし、彼女の卒業を祝っている。

「……ありがとう」

ーー嬉しい……。

ようやく、みんなと同じ大学に通える。

また…和也と同じ場所で学べるんだ……。

奏は彼らにお祝いしてもらい、幸せな気持ちのまま、この後に控える収録に臨む事になった。


ライブに向け、五人の音色が重なっていく。卒業したばかりの彼女は、これからのwater(s)に期待を寄せていたのだった。



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