第563話 やる気のない天才

 

 「来た」


 目を閉じていたユキナがそう言って目を開けると数秒後に壁が爆発する。


 「ようやく辿り着いたわ」


 そこから入ってきたのはアンナ1人、彼女の装備はボロボロだった。


 「愚か、1人」


 「そうね、ここまで来るのにかなりの戦力を消耗したわ、残った戦力も私を追いかけてきた植物兵をすぐそこで止めてくれてる」


 「……」


 「途中から気づいてたんでしょ?私がいるって、だけどアンタは陣形を変えなかった、変えればそこが隙になるから」


 「……」


 「早い話、私だから大丈夫って思ったんでしょ」


 「正解」


 アンナの周りに音もなく鋭利な木が構えられて行く。


 「アンナ、リュウトパーティー、最弱」


 「うわ、ストレートに言われると傷つくわね……てか、本当のことだけど」


 「事実」


 アンナは周りを見るとね四方八方今すぐにでも串刺しにする準備ができている。


 「ほんと、殺す気満々ね、一応ジャンル的には私たち、魔王を一緒に倒そうと同じ道を辿った仲じゃない?」


 「魔王、意味なし、最初からこの為」


 「最初?それって魔王を倒すって決まる前から?」


 「……」


 「そう……あの頃からアオイの中の『女神』は考えていたのね……」


 アンナは悔やむ。


 どうして気付いてあげれなかったのか、と……


 「(ごめんね、アオイ……こうなる前に気付いてあげるべきだった)」


 「話、無駄」


 「そうね、残念ながら私達は殺し合うしかないみたい」


 「処理」


 一気に構えていた木が串刺しにしようと動き出した瞬間____


 

 「来なさい!」



 足元に魔法陣が展開されアンナと入れ変わりに現れたのは



 「良くやったさね、アンナ」



 遠く離れていたはずのルダだった。


 「ほいっと」


 ルダはその場からすぐテレポートをして攻撃を避け。


 「【ベルゼイローション】」


 神の魔法を使った。

 

 「!?」


 ルダを中心に周りのありとあらゆるものが枯れ、崩壊していく。


 「流石、大昔からの災害さね、私の魔法を食らってもピンピンしてるとは」


 「なぜ」


 目の前で1番驚異と感じていた人物と1番最弱でどうでもいい人物が入れ替わりユキナは困惑した。


 「答えあわせがしたいさね?」


 意地の悪い笑顔を見せ、映像を繋いだ。


 {ユキナ、判断は正しかったわよ、事実そこに行くまでに何か動きがあれば私を捨ててルダに行ってもらう予定だった、だけどアンタは隙を見せなかった}


 「……」


 {アンタがヒロユキさん達の所に居た時、私たちの事も調べてたんでしょ?その結果私達の中に超級転移魔法を使える人は居なかった、後は情報のない神の使徒のメンバーだけど、私達が逃げてる時に使わなかったから使えないと判断した}


 「……」


 {だけど、甘かったわね……“敵は使えない”けど味方はどうかしら?}


 「!?、まさか」


 {そうよ、私は一度“アナタの仲間が現代にあるはずのない魔皮紙を使って超級転移するのを見ていた”}


 そう、アンナは一度、ミクラルで奴隷の時にエスが使ったのを見ているのだ。


 「一度、覚えた、!?」


 {私は昔から興味を持った物の記憶力は良くてね、それこそ瞬間記憶能力みたいに記憶出来るのよ、ま、興味を持たないとぜーんぜん覚えられないんだけど}


 「有り得ない」


 {ま、確かに完璧に再現することは無理だったわね、魔法陣の形は覚えても素材とかは0から調べて試作を繰り返して出来たのがこれよ、入れ替わりの転移魔皮紙、それが私の切り札}


 「有り得ない!」


 そう、あり得ない話なのだ。

 

 魔皮紙に書いてある魔法陣を一度見て覚え、それを元に短期間でそこまでの物を完成させる。


 そんなことが出来るのは天才の中の天才しかいない。


 ジュンパクが努力をして天才の地位を得たなら、アンナは純粋な天才……その能力はアンナ自身も気付いていない。


 …………だからこそ、ジュンパクとアンナは馬が合わないのだが……


 {後は簡単よ、私は確かに最弱でそこに行っても殺されるだけだから……むしろ、そこまでたどり着けない可能性の方が高かったわね、だからこそ、アナタは何もしなかった、私が最弱で弱いから、何も出来ないから……そこを利用したのよ}


 「っ!」


 {弱いって言うのは弱点じゃない、覚えておくといいわ}


 「以上が、答えあわせさね」


 「黙れ」


 ユキナが何かしようとしたが周りの植物達は反応しない。


 「!?」


 「残念ながらもうお前の周りは“寿命”が来たみたいさね」


 周りが、大要塞が崩壊して行き、ユキナの装備もボロボロになって溶け、アオイに貰ったふざけてるようなハートの缶バッジも酸化して灰になって行く。


 「あ、う、あ……」





 ユキナは何も言葉に出来ずに崩壊する要塞と一緒に海の中へ落ちていった……






 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る