第536話 宴 親子

 

 「……」


 リュウトから許可を得た私は彼らの使っているテントの中に入る。

 

 「確か、この部屋に……」


 教えてもらったドアには可愛い字で《ユキのへや》と書いていた。

 私の娘、ユキ……今私の生きる意味。


 「……ふぅ……」


 呼吸を整えて部屋をノックする。

 おかしな話だ、強敵と戦う前にする呼吸法を今使ってるとは……


 「はーいです」


 トテトテとこちらに来ているのが聞こえて来るの……つられるように私の鼓動が早くなる。


 「アンナさんです?」


 ドアを開けられる……


 「あ」

 

 「……」


 「おかえりくださいです」


 「ち、ちちょっとまってくれ」


 「何です?」


 「少しだけ、少しだけ話を聞いてくれ」


 「…………」


 ユキは少し俯き、考えて


 「はい……です」


 了承してくれた。


 「ありがとう」


 「少しだけです」


 「あぁ」


 中はとても子供の部屋とは思えない光景だった。

 武器に魔皮紙、魔物に関しての資料に調合の失敗した跡……一人の冒険者の部屋だ。


 「……」


 普通じゃない……小さい子供がこんな……


 「泣いてるです?」


 「え?」


 気がつくと涙が出ていた。


 「すまない、少し昔を思い出してね」


 抱きしめたいが今は逆効果だ、自分の娘は立派に成長している。

 1人の女性として最初はお相手するべきだろう……ルダがそう言ってたしな。


 「ごほん……あー、えーっと」


 「?」


 「その《シクランボ》はタネを割って中の粉を【フルーツアブルデ】の魔皮紙に満遍なくかけた後、実の果汁をその魔皮紙に通してコップに入れるとうまくいきますよ」


 「へ?」


 「その調合の跡はシクランボを使った魔力回復のジュースでしょう、私も最初は苦いのが嫌いで飲んでいた」


 「っ!そうなんです!みんなが飲むのは苦くてですね……出来るだけアンナさんの魔力を消費させないようにって貰うんですけどです」


 どうやら、掴みは成功したみたいだ。


 「うむ、ウチの補助魔法をかけてくれる人が言っていたが、どんなに効く薬でも飲んでくれなきゃ意味がない、だから一番大切なのは効力を落とさずに飲めるようにすること、そこに気付くとは将来君はすごい冒険者になりそうだ」


 「えへへ、そうです?」


 娘は褒められたのが嬉しいのか顔が柔らかくなって恥ずかしそうにする……かわいい。

 本当は冒険者なんて命を賭ける職業は親としてついてほしくないが……


 「私はこれでもグリードという国を代表していた身だ、知識は持っているから他に何か聞きたいことはあるかい?」


 「……」


 娘は少し考えた後、本棚から参考書を一冊持ってきて応えてくれた。


 「その……ここなんですけど……」


 「あぁ、ここは__」


 

 それから私はゆっくりと娘に冒険者の事を話していった……


 そう、何もすぐに真実を話さなくていい……ゆっくりで良いんだ。

 

 


 もう、魔神は居なくなったのだから……












 



 だが、まさか、次の戦いがこんなに早く始まるとは私を含め、全員が思っていなかった。







 

 

 

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