第523話 未来の救世主
「流石私の娘だ」
スラッとしている高い背に銀色の長い髪。
そして手には氷の盾と氷の剣。
グリード代表の騎士、【神の使徒】、伝説の勇者の血を継ぐ者……そして、ユキの父親。
____キールは【目撃護】を発動させてユキを護ったのだ。
「え……」
ユキは突然のことで困惑する。
「邪魔だ、タナトス……私の娘に近づくな」
「フシャァァァ!?」
キールはユキを攻撃したタナトスの尻尾を片手で掴んで投げ飛ばした。
「え、えと……」
ユキはキールをじっと見ている最中、割り込むようにルコサがニコニコしながらユキの顔の前に来る。
「やっ、久しぶり未来の救世主」
「あ……あの時の……」
「覚えててくれたんだね、おー、直接結界を張ってるとは驚いた、変わるよ」
「え、あ、はいです」
スッとルコサがユキの代わりに魔法陣に魔力を流すと透明なドームは青白くなっていき、濃度を増す。
「す、すごい……です、その……えと」
「ん?なんだい?」
「お礼はまたパンツですか……?」
その瞬間周りが凍りだす。
「ちょ!?キーくんストップストップ!違うから!貰ってないから!」
「お前が変態だとはみんな知ってる、だが私の娘に手をかけたとなると……殺す」
「ひいぃい!」
「ユ……キは……」
「ユキ!」
そんなやりとりを見て緊張感が和らいだのかユキは倒れそうになるのをキールは支える。
「これを……」
キールは意識が朦朧としているユキの口にピンクの液体を入れる。
「飲むんだ」
「ん……」
魔法でコーティングされた周りは唾液で溶け、ユキの口の中に激がつくほどの甘い味の液が広がりそれを飲んだ。
「……はぁ……はぁ……」
ユキの身体が熱くなる。
「すぐ楽になる……」
「さて、と、じゃぁ、頼むよ、クロ、オリバ」
「はいよ、後輩のケツを拭いてやるかぁ」
「あいつ、俺に喧嘩売ってきた奴か……」
「はっ、男はそんくらい負けん気がねーとだめなんだよ」
「フッ……」
「あ、それとタナトスは一体だけ生かしておいてね」
「安心しろ、皆殺しにしてやる」
「いや、ダメなんだって」
そう言って2人はジュンパクの手助けにいく。
「ユキ……」
徐々に顔色が良くなっていくユキ。
「もう安心だね、魔力のほとんどを使い切ってた……もはやこれは命を削りながら結界を張ってたに等しい」
「責任感が強いのは親譲りだな」
「それって君の事?それとも」
「どっちもだ」
3人が結界内のタナトスをおおよそ狩り尽くした所でユキの目が覚める。
「っ!、寝ちゃった!です!」
「おはよう〜」
「ユキ……ユキ!」
キールはユキを抱きしめた。
「な、何です!?変態さんです!?」
「ユキ、私だ!」
「良く見たらあの時のおじさんです!離れるです!」
「お、おじさん……」
「ぷっ……」
「……」
「ち、ちょ!?キーくん!?俺の体温下げるのやめて!?」
キールは落ち着いてユキの両肩に手を置いて真っ直ぐに目を見て話す。
「今はまだ、信じなくていい……だけど、君には力がある」
「力….です?」
「そうだ、君の中にはまだ眠っている【伝説の勇者】の魂がある、それを今引き出すんだ」
「む、難しい事はユキには解らないです……」
目を逸らすユキにキールは柔らかい笑顔で頭を撫でた。
「ふにゅ」
「難しく考えなくていい、誰かを護る、誰かの為に戦う、誰かを思う……その想いを力にするんだ」
「誰かを……」
ユキは目を閉じて思い出す……
モグリ邸のみんな。
自分に戦いを教えてくれたリュウト達。
初めて恋をする程カッコよくて好きになったヒロユキ。
小さい頃から育ててくれたミロク。
そして……将来の目標になったアオイ。
________ユキの周りの気温が高くなりだした。
「フッ……」
確信したキールはユキから離れルコサの隣に行く。
「成功したみたいだね」
「元々素質は十分備えていた、後は背中を押してやるだけだ」
「ふふっ、さて、と、クロ〜オリバ〜そのヘロヘロな子連れて来て〜」
ルコサの声は決して大きくないが2人はそれを聞いてジュンパクを気絶させて持ってくる。
「コイツはどうする?」
「あー、他の人と同じで休ませておいて?ここまで来ると何があるか分からないから」
「あいよっと」
これでアカネ、あーたん、ジュンパク、アンナは強制的に【限界突破】を解除された状態で意識を失う。
「残りは5体……」
オリバルのその数字はこの結界の中に居るタナトスの数。
タナトス達は一斉に此方に走って来ている。
ユキは目を閉じたまま言う。
「ユキは、みんなを……護る為に戦うです」
ユキを取り囲むように炎が舞い上がり包む……そして__
「____【武器召喚】」
炎から出てきたユキの両手には真っ赤に燃える2本の剣が握られていた。
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