第504話 最後の休息

 《山亀 背中》


 山亀の背中は森になっていて、それぞれ大きな木はアバレー王国の建築ウッドの様に家になっていた。

 

 今はジュンパク団の全員が乗り込み、それぞれのパーティーと過ごしているところだろう。


 「…………」


 出発して2日、何も変わらない景色だが、ヒロユキは座って山亀……ユキナの行く先の海を見ていた。


 「ヒロユキ」


 「……リュウトか」


 「ジュンパクさんに聞いたよ、ずっとここに居るんだったな」


 「……」


 「隣、いいか?」


 「……あぁ」


 リュウトはヒロユキの隣に座って同じ海を見る。


 「俺たち、ついにここまで来たんだな」


 「……あぁ」


 「まぁ、魔神を倒したとしても盛大に祝われる訳じゃないだろうけど」


 国の人間達は勇者自体が召喚されている事すら知らない。

 魔王の事も魔族もだ……もし、見たと言う人が居ても信じる人はいないだろう。


 「……讃えられたいか?」


 「こんだけ頑張ったんだから少しはね」


 「……そうか」


 「ヒロユキはどうなんだ?」


 「……俺はそう言うのは苦手だ」


 「そうか……」


 リュウトは少ししょんぼりしたがヒロユキはそちらを見ずに続ける。


 「……だが、考えは同じだ、頑張ったから褒めてほしい」


 それを聞いてリュウトは少し笑顔になった。


 「そ、そう?て事は誰かにって事だな?ユキさんか?」


 「……違う」


 「ジュンパクさん?」


 「……違う」


 「え!?まさかアオイさん!?」


 「……それはお前だろ」


 「バレたか、へへ」


 「…………兄さんだ」


 「そういや、居たんだっけな、お兄さんが」


 「……あぁ」


 「不思議なもんだな、俺にはヒロユキの方がみんなの兄さんって感じだ、事実ジュンパクさんもアニキって言ってるし」


 「……それは、俺が兄さんを真似して生きているからだ」


 「お兄さんを?」


 「……兄さんの考えると思った通りに行動していて気が付いたら仲間ができていた」


 「……」


 「……」


 2人で海を見る。


 「お前が上から引っ張って、俺が下から押し上げる」


 「……!」


 「俺、さ、前の世界では何も興味を持てない人間だったんだ」


 「……ほう」


 「色の無い世界……俺には世界がそう見えてた」


 「……色の無い……」


 「だけど、そんな俺にもいつも話しかけて来る奴が1人居てな……今思うと、そいつが唯一の友達だった……その友達が色々進めて来るアニメかゲームか……こんなセリフがあったんだ」


 「……」


 「ヒロユキはお兄さんを見て育った、それはお兄さんがヒロユキを引っ張っていたのと同時にお兄さんを押し上げていた……」


 「……俺が……兄さんを……」


 「だけど、今はどうだ?」


 「……?」


 「ヒロユキの背中を見て、ユキさんがジュンパクさんが、たまこさんが……そしてジュンパク団のみんなが後に続いてる……それを引っ張っているのはヒロユキ自身だ、いつの間にかお前はお兄さんと同じ立場になっていたんだよ」


 「……同じ……」


 「て事で、後は俺に任せてくれ、みんなを押し上げてやるよ、アニキ」


 「……フッ」


 「ハハ、魔神を倒した後も友達……いや、親友としてよろしくな」


 「……歳下の親友が出来るとはな」


 「だからアニキって言ったじゃないかフフッ」


 「……アニキはやめろ、親友の命令だ」


 「ハハッそれは聞かなきゃならないな」


 「……それで、色の無い世界はこっちに来て変わったのか?」


 


 リュウトは思い出す。


 他人の命も自分の命すら興味を持っていなかった自分。


 この世界に召喚された日、白黒の世界で唯一、色が付いて光を放っていた人物を……色があると認識させてくれた美女。


 そしてその日からずっと変わらないリュウトの恋をしている相手。



 ____アオイ。





 「あぁ、変わったよ、世界も、色も……俺も」





 




 ____そして、その数時間。







 神の島が姿を現した。










 



 





 

 

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