第500話 ユキナの秘密

 《モルノ町 ギルド》


 モルノ町はミクラルでは田舎の方で普段は冒険者も少ないので情報が漏れる可能性を考慮してリュウトが集合場所に選んだのだが……


 「どうして今日に限ってこんなに……」


 ギルド内はいつもより賑わっていた。


 「あ!アニキ!リュウトのボウズ!」


 その中から待ってましたと言わんばかりにぴょんぴょんとスキップしながらヒロユキに抱きつくジュンパク。


 「……ジュンパク、準備はどうだ?」


 「バッチリだよ!それより場所は解った?」


 「……あぁ、リュウト」


 リュウトは貰った地図を取り出した。


 「ほうほう、地図だね?とりあえず座って話そ?」


 そう言ってジュンパクは壁際の席に移動するとユキナがボーッと待ってた。


 「……ユキナ」


 「リーダー」


 「……留守番お疲れ様」


 「バッチリ」


 短いやり取りをしてリュウトとヒロユキ、そしてジュンパクが席に着く。


 「じゃあ、行くよ」


 リュウトが地図の魔皮紙に魔力を流して起動すると机の上に地図が広がり、そして神の島の場所が明らかになった。


 「え!?日本!?」


 「……しかも、世界地図は日本を中心に作られた物……」


 だが、それ以上に驚いていたのはジュンパク。

 

 「はわ!?ぬぁぬぁぬぁぬぬぬぬぬぬぬぇあるるるるるりりりるる???」


 「……ジュンパク?」


 「ジュンパクさん!?」


 急に立ち上がって目を見開き、人間本当に驚いたらこんなになるのかと言うほど過呼吸になって胸を押さえて苦しそうにしている。


 「だ、だ、だ」


 大丈夫と言いたいのだろうけど全然大丈夫じゃなさそうだ。

 ギルドに居る周りの人達も流石にジュンパクを注目している。


 「……ジュンパク」

 

 「ごごごごめん、今落ち着かせるよアニキ」


 バチンと気つけに両頬を叩いた後に胸に手を当てて目を閉じ__


 「よぉし!」


 と大きな声を出して普段通りの顔に戻った。


 「何見てんだ、見せもんじゃねーぞ!」


 気合を入れすぎたのか心配してみてくれてた人達に対して失礼な態度を取ったが冒険者は元々そう言う輩が多いのでそれぞれが何事もなかったかの様にまた騒ぎ出した。


 「心配かけてごめんアニキ……」


 「……何があった?」


 「アニキ……」


 「……うん」


 「その【世界地図】……そんな物が世の中に存在しているなんて思いもしなかった」


 そこまで言ってヒロユキとリュウトは納得した。


 2人はその地図を異世界に来る前に当たり前の様に見ていた……だが、この世界には世界地図なんて物は無いのだ。

 

 正確には人間は誰も持っていない。


 ダイヤモンドより上の冒険者はその実力が評価されて未開の地へ行って魔物を狩る《開拓》と言う国から直接の依頼が受けれる様になるが、これは国を広くするのと同時に地図を作成するのにも役立っている。


 そして、ジュンパクは元海賊。

 地図なしで船旅をしているのだ、どこに陸地があるかも分からない状況、苦労もあっただろう。

 だが、これさえあればどこに進路を向け、どれだけの時間がかかるかおおよその計算も出来る。


 まさに海賊にとっては最高の宝と言うやつだろう。


 

 「……なるほど」


 「確かに、ジュンパクさんが驚くのは無理もないですね」


 「……ジュンパク、どれくらいかかりそうだ?」


 ジュンパクは真剣な顔になって世界地図を見る。

 

 「そう、だね……今ここがナルノ町としてこの数字が距離計算だとしたら……1番近い海から出たとしても2週間はかかるかも」


 「……ふむ……2週間か」


 「もう少し早くなりませんか?」


 「リュウトのボウズ、これは移動手段の問題だね、ミーの船はそんじょそこらの船より早いけど海では何があるか分からない、慎重に行かないと沈没して目的地に辿り着くまでにドーン!……なんてことなったら元の子もないでしょ?」


 「確かに……そうですけど……」


 「元々場所もわからない所が見つかっただけでもすごい事なんだよ?ここはミー達の船を__」


 ここでヒロユキはある事に気付いた。

 

 「……神の使徒はこれを見越してたのか?」


 「?」


 「アニキ?」


 「……今まで、オリバルさんやクロエさん、ルコサさんが俺達を導いた後、問題に突き当たるとヒントをくれていた……」


 リュウトも思い当たる節があったのか「確かに」と言って考える。


 「そうなると今回、俺達が早く行きたい事も織り込み済みなはず……もしかして!」


 「……これか」


 ヒロユキはアレン国王から貰った魔皮紙を出す。


 「アニキ?それは?」


 「……解らない」


 ヒロユキはとりあえず魔皮紙を発動させると中から1つの美しい“黒い薔薇”が出てきた。


 「!」


 「……ユキナ?」


 今までジュンパクが変になっていた時もボーッとしていたユキナが目の色を変えてその薔薇を見る。


 「リーダー、それ」


 「アニキ……それって『黒髑髏薔薇』じゃない?」


 「……黒髑髏薔薇?」


 ヒロユキは龍牙道場に入る時、これを見たことを思い出す。

 あの時は魔力を一気に吸われて魔力酔いを起こしたが、今は何とも無い。


 「しかも完成形……数年前から流行り出した違法の物だよ」


 「……違法?」


 「うん、冒険者のアニキとは縁がないかもだけど、ミーは元海賊だからそう言う話が舞い込んでくるの……何でも、その花びら1枚をお酒の樽1つに入れるだけで天国にでも上った気分になるくらい気持ちいいらしくて、それ故に中毒性も高く、闇取引されてるものだよ」


 「……これはミクラル城の倉庫にある物を取り寄せるって言ってた」


 「なるほど、つまりミーが考えるに違法だから騎士達が頑張ってかき集めたものだろうね……でもどうしてここに……」


 「……国王は言ってた、ユキナに渡せと」


 「ユキナに?」


 全員がユキナを見る。


 「あ、う」


 「……ユキナ」


   「…………………………………………………………………。。。。。。。。。。。。。。リーダー。」


 「……なんだ?」


 「移動手段、任せて」


 「「????」」


 リュウトとジュンパクはなぜユキナがその言葉を出すのか理解不能だったが、当然“任せて”を聞いたこの人は


 「……任せた、時間はどれくらい必要だ?」


 即答した。


 「まったく……ミーを差し置いてアニキにサプライズなんてユキナもすみにおけないねぇ」


 ジュンパクも慣れたことなのかヒロユキの方針に従って何も聞かない。


 「俺もここで聞くのはヤボって奴かな、移動手段はそっちに任せるよ、俺はアカネ達と合流して集合場所に行く、どこに何時に行けばいい?」


 リュウトも何も聞かずに時間と場所を聞くとユキナは珍しく悩んでるのが顔に出て答えを出した。


 「時間、目立ちたくない、深夜2時、ナルノ海岸」


 「決まりだね!よーし!」


 ジュンパクは立ち上がって声を張り上げた!


 「野郎ども!深夜2時にナルノ海岸出発だ!それまでに準備しておけ!装備も魔皮紙の補給も最後の晩餐もぜーーーーんぶ終わらせる様に全員に伝えろ!金は全部ヒロユキのアニキのおごりだー!」



 それを聞きギルド内に居た全員が声を出してそれぞれ動き出した。




 「まさか……今日ここにいる人達って……」





 「ふふん、リュウトのボウズは知らないだろうけど、ジュンパク団はアニキを中心に1つの大きな組織になったんだよ〜、ここにいるのは全員幹部、魔神と戦争するんだ、こっちも全戦力を投入するぜ」





 


 

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