第210話 リュウト!暴走!

 《翌朝》


 日の光も入りずらい程の薄暗い森の中を魔物を倒しながら進んでいく。


 「はぁぁぁぁあ!」


 「てりゃぁぁ!」


 やるな……


 流石勇者のパーティーメンバーだ、動きがダイヤモンド冒険者クラスはある……彼女には私の昔使っていた片手剣を渡しているのだがすぐに武器に慣れて使いこなしている。


 この調子なら彼女を庇いながら進むと言う心配は無さそうだ。


 「そう言えば、リュウトの居場所が解るんですか?」


 「分かりますよ、私はリュウトさんに買われた奴隷ですのでご主人様がどこに居るか感覚で解るんです」


 「感覚?」


 「うーん、例えばですけど右か左の道を選べと言われたときに直感で答えるとその先にはご主人様が居る感じです」


 「そうなのか、なら今はその直感を頼りに走って行ってると言う事ですね?」


 「そうです」


 「しかし、町をどんどん離れて行ってるが……」


 「それは私も気になります……」


 「ちなみにだが、勇者アオイもその呪いが?」


 「もちろん妹ちゃんにもかかってますね、設定されているのは誰かは解りませんが、無意識の内にその人に行くようになってます」


 「……」


 人の無意識領域に働きかける魔法……『呪い』恐ろしいものだな。


 「それとキールさん」


 「?」


 「無理に敬語を使わなくて良いですよ、時々言葉が素に戻ってます」


 「う……」


 出ていたのか……魔物などを討伐する時は部下や友と行く時だったのでお客様モードとの切り替えが出来てなかった。

 

 ここから先は町から遠く離れて行ってるので新種の魔物が出る可能性はないとも限らない……その時に判断が遅れてアカネを死なせてしまう事も最悪あり得るな……


 「お言葉に甘えさせてもらおう」


 「はい!もともとグリードの代表騎士様とお供できるなんて私の人生で一位二位を上回る自慢話ですし!後でサインもください!」


 「あぁ、無事に送り届けたらな」

 

 さらに森の深くに侵入していく。


 出てくる魔物も大きく気味が悪いものが多くなって来たな。

 

 「この国では魔物を“アヤカシ”と言うが、確かに私の国より不気味な見た目をしてるものが多いな」


 「はい、生態も謎のものが多いとか?」


 そう言いながら木に化けていた2メートルの昆虫型の魔物を即座に見つけ真っ二つにした。


 「そう言えば、アオイの事は詳しく聞いたが、君のことをあまり聞かなかったな?そんなに強いのに何故捕まったんだ?」


 「…………私は奴隷商で育ちましたけど、一応産まれたのはアバレーで友達が居ました」


 「……」


 「リュウトさんに買われてアバレーに来たとき、その友達に会えたんです、それから一緒に遊んだり一緒に美味しいもの食べに行ったりしてたんですが、ある日、私がお花を積みに行って帰ってきたとき、【芋ジャガのスープ】に睡眠薬が入れられてました」


 「ほう、解ったのか?」


 「はい、パーティーの人で毒を使う人が居て、臭いを覚えてました、でも友達が私を眠らせる理由が解りませんでした、なので……」


 「ワザと飲んだのか?」


 「はい、そして目が覚めたら牢屋に居ました」


 「ふむ、それで……ん?それだと私の知っている事は表向きと言うことか?」


 「そうです、表向きはカジノを破壊した犯罪者ですが本当に捕まった理由は……」


 「理由は?」


 「……」


 そこでアカネは口を閉じた、あまり言いたく無いことなのだろう、だが話さないと申し訳ないという気持ちもある、て感じだ。


 「無理に言わなくて良い」


 ならば、言わなくても良い……元々私が欲しかったのはアオイの情報だったからな。


 「すいません……あ、でも“ある情報”があってその事をリュウトにお伝えしようと……」


 「ある情報?」


 「どうやら『山亀』が動きだしたと」


 「なんだと!?」


 『山亀』……クリスタルドラゴンと同じで神話に出てくる化物だ。


 その巨体はクリスタルドラゴンを越え。

 その食欲は底知れず森ひとつが砂漠になる。


 はるか昔に勇者が魔力を枯渇させ、なんとか動きを止めて眠らせたと伝説がある。


 そんな伝説の化物が!


 「動いてると言うのか!?今この時にも!」


 「はい、実際に世界樹ウッドに向かってきてるそうです、到達予定は1週間後」


 「1週間後……ギルドはどうしてるんだ」


 「そこまでは解りません」


 「私は今からそれをギルドに伝え____」


 「ダメです!あなたに情報は教えました、ちゃんと約束は果たしてください」


 「確かに約束したがそれとこれとは__」


 「ここまで言ってわかりませんか!だからリュウトさんの所へ行くんです、あなたもグリードの騎士なら知ってるはずです、リュウトさんの実力を!……それに代表騎士がお忍びでアバレーに来てるのがバレるほうが問題なのでは?」


 「くっ……」


 入国審査の時に私が来るとなるとアバレー側では大騒ぎになってしまう、なのでここへはギルドを通して来ていない。

 

 確かにアカネの言う通り、私には選択肢は無かった。


 「……」



 「それに、もうすぐそこに居るみたいですしね」


 「!?」


 アカネはその場で止まる。


 「こんな森の中で?」


 「はい、ここに居れば来ると私の勘が言ってます」


 「……」


 「……」


 その時だった。


 「っ!」

 

 「リュウトさん!?」


 突然人影が木の上から降ってきた!


 「ガ、ァァア!」





 その人影の正体は牙を生やし全身を禍々しい漆黒の鎧に身を包み、苦しみながら魔物の様に吠えているリュウトだった。


 


 


 

 



 

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