第169話 レンタルは短い!
「あなたは……なぜここへ」
「簡単な話です、買い取ってくれた店が無くなったがレンタルの期間は続いてる、私共は仲介役として来ました、それだけです」
お前らは車の保険屋か!
「では、僕のレンタルの期間が来たと言うことですか?」
早い……と思ったがこれが普通か……元々の期間を聞いていなかったし
「と、とりあえずお茶をどうぞ」
少しでも幸せな時間を伸ばすために色々してやる、俺のおもてなしとトーク力を甘く見るなよ!
「随分と素直になったな」
「最近この生活に慣れてきましたので」
誰のせいでこんな身体になったと思ってんだ。
「それにしてもこんな古くさい家、良く住んでられるな、アバレーにまで来てグリード形式の家を建てるとは……いや人間だから建築ウッドが買えなかったのか?」
「は、はは」
いや!いいと思うよ!こういう家って元の世界と同じだから落ち着くんだよね、それに比べ建築ウッドの家はどうしてもファンタジーすぎて緊張するんだよね!
大マスター様は出されたお茶を飲んでる……下剤でも入れれば良かったと、今頃になって思うのは奴隷の呪いってやつかな?そう言う考えをさせない的な。
「それで、最近はどうだ35番、ちゃんと使われているか?」
「えぇ、それはもう、すごく」
じいさんすまん……そんなことないけどここはこう言わないとご機嫌がとれないと思ったのだよ……
予想通り大マスターは機嫌を良くしたように笑みを浮かべてる。
「それはそれは結構、それならここの貧乏くさい奴も信用できるな」
「は、はは」
ほんと思考がくずだなぁ、つまり奴隷である俺達はボロボロのゴミ雑巾の様に使われるべきだと言うことか?
俺は心中暴言を吐きながらも営業スマイルで悟られずに話すのだった……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《じいさん 帰宅》
「おーい、帰ったぞ……む」
じいさんはいつも通り帰ってきて、先客に気づいた。
「誰じゃ」
「これはこれはどうも、私は『女神の翼』の幹部のものです、アオイを回収しに来ました」
「ほぅ……ここまで来るとは……ここら辺の魔物は手強いはずじゃが」
「此方はそれをも容易く凌ぐ戦力がありましてね」
たぶん、エスの事だろうな。
「さて、本題に入りますか……先ほど申し上げたようにアオイは期限が来ました、なので私たちから買った方へ返却しますね」
「……そいつの店は先日、潰れたと聞いておるが?」
「えぇ、此方も把握しております、ですがアオイを買ったのはあくまでも個人、今あのカジノのマスターはカジノを辞めて買った奴隷達で何か他の稼ぎを考えてるんじゃないですかね?まぁ、私の知ったことではないですが」
「……」
じいさんは黙り、ただ静かに時間がすぎていく……楽しい時間はあっという間と言うが本当にその通りだ。
…………あぁ、帰りたく無いな。
「時間ですね、それでは……」
大マスターは何か魔法を発動させると、自分の意思とは反対………………
…………反対?かわからないが、急に帰りたくなった。
なんだろう、今すぐにでも走って帰らないと……ってそんな気持ちになった。
「さぁ、帰るぞ」
「……」
「おかぁさん?どこいくの?」
「……ユキちゃん?」
帰ろうとドアを開けた時、さっきまで外で遊んでいたユキちゃんが何かを察してか心配そうに立っていた。
「えーっと……お母さんはね、またお仕事にいくんだよ」
「え……」
「だからまた今度ね?」
「だめ!!」
ユキちゃんは俺の足をギュッと抱き締めて歩きづらくしてくる。
その力は子供とは思えないくらいすごい力だ……それほど本気なのだろう。
「ユキちゃん……」
「おかぁさん言った!どこにも行かないって!」
「そうだけど……」
「嘘はだめ!おかぁさんは……おかぁさん……やっと来てくれたのに……」
ユキちゃんはプルプルと身体を震わせてる、顔は見えないが涙を堪えてるのだろう。
「ユキ……迷惑かけるんじゃない」
「でも!じぃじ!」
「仕方ないんじゃ、仕事に行かせてあげるんだ」
「……」
ユキちゃんは力なく俺から離れて、大マスターの方を見上げる、そこには我慢しててもはみ出している涙がツーッと落ちていた……
「お……おじさんはおかぁさんのお仕事の人?」
大マスターはそれを見て、優しい笑顔。
つまり営業スマイルで淡々と答える。
「そうだよお嬢さん、君が大人になったらまた取り戻せるかもしれませんね」
「大人に……」
ユキちゃんはそれを聞いて絶望し、その場で膝から落ちる……
そのまま、大マスターと二人でユキちゃんをおいて歩く……これでいいんだ……むしろ短い期間で良かった……大人になる頃には俺の存在なんて忘れてしまうのだから……
「そんなの……待てない!」
「っ!!!!」
「ユキ!」
「ユキちゃん!?」
一瞬何か赤いマグマの様な線が大マスターを通りすぎたかと思ったらその線はこの家の結界を貫通し何かに当たって爆発した!
振り返るとそこには涙を流しながら手を此方につきだし、その先に魔方陣を展開しているユキちゃんの姿があった!
「おかぁさんはもうどこにも行かせない!」
「…………ガキが、調子に乗ってると奴隷にするぞ」
「ひ……でも……それでもユキのおかぁさんだから!」
「このガキ!」
大マスターはいつもの営業スマイルはなくなり目を細めユキちゃんに近づいて……っ!だめだ!
「……どういうことだ、35番」
「……すいません……」
「おかぁ……さん」
俺はユキちゃんを庇うように幹部の前に立ちふさがっていた。
「ふむ……」
その光景を見て大マスターは考えてドアの方にいるおじいさんの前に行く。
「私と直接、商談をしますか?」
「……いいじゃろう」
そのまま大マスターとおじいさんは家へと入って行った……
「おかぁさん……おかぁさんおかぁさんおかぁさん!うわーん!」
「よしよし……」
俺はついに泣き崩れ始めたユキちゃんを優しく抱きしめいた。
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