第150話 なぞのおじいさん?

 《カジノ》


 背中に嫌な感触を感じながらも、頭を下げ、地面におでこを擦り付ける。

 その行為は、日本古来から伝わる謝罪の一つ______土下座である!


 「すいません!すいません!」


 必死に謝るが許してくれる気配がない……


 それが分かっていても謝るしかないのだ、それが店側、お客様神様の精神!


 くそぅ!奴隷じゃなかったらぶん殴ってるのに!……いや、無理か。


 「でー?この店はこの俺が誰かわかってんのか?」


 牛がモーモーとイキってる……鼻息も荒く長く太い舌もべろっべろと出ている、まさに下品という言葉が似合ってるよ。


 「俺はな!あの《熊さん組》の一員なんだよ!」


 「っ!!」


 ブフッ……と笑いそうになるが堪える、流石にそのネーミングセンスはヤバい。


 「ほら、何とか言ってみろよ?」


 俺の頭からもう1度ミルクがしたたってくる。


 「…………」


 その光景を見ながら周りの獣人達も助けるわけではなく、慣れているのか話しているだけだ。


 「よりにもよって熊さん組か」


 「この店も終わったな」


 「それにしてもあの人間、本当に顔がいいな」


 「身体もいいぜ?」


 「俺も買ったばかりの人間の奴隷に飽きたし、あいつ買えるかな?」


 「無理無理、アイツはここの目玉商品だ、1日のレンタルだけでも破格に高いからなぁ……それなら他に回した方がマシだ」






 ____ここは獣人とギャンブルの国……【アバレー王国】





 「非常に申し訳ありません!」


 隣で同じように土下座をしている羊の獣人、このカジノのオーナーが謝っている。


 「この度はこの奴隷が勝手なことをしてお客様に不快な思いをさせて本当に申し訳ありません!」


 「……え」


 こいつ!俺を全部悪者にしやがった!


 ディーラーで儲けを出せないから使えないと言って俺を奴隷刻印の呪いで毎晩毎晩苦しめて楽しんだ挙句に「毎日毎日同じ事してるんだから客を騙せるくらいしろ!」とか言ってきてたくせに!


 俺がどんだけ死に物狂いで泣きながら夜な夜なイカサマを練習していたと思ってんだぁぁあ!!


 「そうだよなぁ!人間って種族はこんなんばっかりだぜ、そのくせ数だけは繁殖しまくりやがってよー、それもこれもてめーみたいな淫乱な身体して男誘ってヤりまくってるからだろ?ある意味俺たち獣人より獣だぜ!」


 周りからドッと笑いが巻きおこる。

 中には腹を抱えて涙流しながらハイエナの獣人が笑ってる。


 というか!こいつみたいなほとんど獣みたいなのはともかく!

 尻尾や耳だけの奴らもこぞって笑ってやがる!お前ら見た目ほとんど人間だろ!!


 「すいませんすいません」


 「おいおい、人間よぉ、「すいません」だけしかいえねーのか?まるで鳴き声だな」


 「っ!」


 俺の髪を牛の獣人は片手で掴み無理やり立たされる。

 痛い!頭が外れる!



 「ほーら、てめーの汚ねぇ淫乱な身体、せめてお客様にみてもらえよ、獣人なら可愛がったものをよ!」


 牛はもう片方の手で思いっきり俺のディーラーの服を破いた!


 「っ!!」


 俺の黒いブラジャー姿があらわになる……だが俺は男だ!


 むしろざまーみろ!お前らが見てるのは雄っぱいだ!



 俺が胸を露出してみんなに見られていたら、よぼよぼの……それこそ日本昔話に出演してそうな、白髪のじいさんがゆっくり歩いてきた。


 「ホッホッホ、それくらいにしておくれ」


 「あ?誰だお前」


 「わしはここで大当たりしてその奴隷のレンタル券を獲得した者じゃよ」


 「しらねーよ、今こいつに教えてやってんだ、てめーらみたいな人間がたてつくとどうなるか」


 「いいのかの?いくら熊さん組だとしてもカジノの掟そのものを覆すと、《愛染家》が黙っとらんぞ?」


 「ぐ……」


 俺を見物していた人達はそれを聞いてそれぞれ持ち場に戻りギャンブルを再開していった。


 「ふん、運のいい奴だ」


 牛の獣人は俺を乱暴に離して人混みに消えていった……



 「オーナー、じゃぁ、わしの手続きを」


 「かしこまりました」


 



 ……はぁ……どうしてこんな事になったんだろ……





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