第92話 日常的風景は幸せな事!


 俺達はお互いの物語をゆっくりとお酒を飲み、豪華な料理をつまみながら話し合った。


 「みんな大変な思いしてるんだね」


 「アオイさんほどじゃないよ」


 「......同じく」


 ざっくりまとめる。


 【リュウト】


 【勇者】である事を秘密にしながら冒険者をして生活している。

 しかし、いつか自分の使命である『魔王』と戦うことがあるのでは?と思い、日々精進している。


 今は小さな村で会った『みや』と言う少女と、ここにいるアカネさんともう一匹、俺を救ってくれたアールラビッツのあーたんさんとパーティーを組んで冒険を続けている。


 あれ?これってあれじゃね?テンプレ的な異世界のハーレムじゃん?


 

 次に俺の弟【ヒロユキ】


 リュウトとは逆にこの世界で元々は平和に暮らしていくつもりだったらしい。

 らしいと言うのは、ある日、国から派遣されてきたユキという人物に【武器召喚】という魔法を習得するように言われ、今はそれを目標に冒険者生活をしている。



 ざっくりと言ったが、二人ともそれなりに死線をくぐって来ている……特にリュウト君が死にそうになった話とか俺と同じような匂いがした。


 「目標、か……僕なんかその日その時しか考えてないや」


 そう、二人には何かしらの目標があり、真っ直ぐに進んでいるのに対して俺の場合は何とかその日を生き残ろうとしているだけだ。


 「妹ちゃんの場合、状況が状況だからね?仕方ないよ?よしよし」


 撫で癖があるのかアカ姉さんはめちゃくちゃ撫でてくる……正直恥ずかしい。


 「そうだよ、アオイさんの場合俺達とは状況が違いすぎる、俺やヒロユキは自由だから目標を設定出来る身であって、アオイさんは自由じゃないから仕方ない」


 撫でられる俺を普通にスルーして話が進む。


 「そ、そういってもらえると僕も嬉しいよ」


 まぁでも、正直自由だったら俺もヒロユキと同じで冒険者とかじゃなくてひっそりと暮らそうとするかも……


 「今ここにみやが居たらなぁ」


 「?、みやってリュウト君のパーティーの子だよね?どうして?」


 「あいつは少し特殊で目を持ってるんだ、その目で見ると『解析』をすることが出来て敵のいろいろな情報が手に入る」


 「うん、それで?」


 「アオイさんの『呪い』を解呪できるかもしれない」


 「呪い?」


 「えぇ」


 そう言ってリュウトは自分のグラスの残りの酒を全て飲み干す……いい飲みっぷりだね!


 「まず『呪い』ってどんなイメージがあります?」


 「うーん、やっぱり呪い殺すとか良く言うし、かけられると死ぬとかかな?」


 「そこなんですよね、俺達の世界の呪いのイメージは相手を恨むとか嫉妬とかですよね?ところが、この世界での呪いは違って一言で言うと『人の無意識領域を支配する』って事みたいなんです」


 「ん?どういうことかな?」


 「例えば、今アオイさんは奴隷ですよね、でもこの今の状況って逃げようと思ったら逃げれる、なのに行動に移さないでしょ?」


 「言われてみれば......確かに」


 「それがアオイさんにかけられてる呪いです」


 「その……頼って悪いんだけどリュウトくん達が僕を連れて逃げるとかは?」


 「その場合、元の場所に帰りたい意思が強く働いて薬物依存の人みたいになると思います、呪いが解かれない限り一生……」


 「うへぇ……そ、そのみやって子は今どこに?」


 そんなの早く治してもらいたいんだけど……

  

 「ちょっとあいつは事情があって別ルートでミクラルに来てもらってるんだ......」


 「そ、そっか......」


 俺が少しショボーンってしてると、それを見てたリュウトがおもむろに手をとって握ってきた。


 「だ、だから!いつ来るかわからないけど!もしもみやが来たら絶対に会わせるから待っててくれ!絶対に助けるから!」


 「リュウトくん......うん!」


 なんてリュウトくん良い奴なんだ、お兄さん目から汗が出そうだよ。

 

 「だから......その......助かったらこの世界で俺と......」


 「?」


 リュウトくんは顔を真っ赤にしながらしばらくモゾモゾぼそぼそっと何かを言って席に座り直す。


 「リュウトさん!許しませんよ!まだそう言うのは早いですし何より妹ちゃんを救ってからです!ね!妹ちゃん!」


 「え!?う、うん!」


 え?もしかして?だよね?そんな事はないよね?うん、気のせいだ!

 

 「そ、そうだよな、まだ早いから今のは無しで!ところでヒロユキもそのユキって子は今日来ないのか?」


 「......リュウトから無理やり連れてこられたから時間なかった」

  

 「悪かったって、こっちも時間が時間だったから急いでたんだ」


 「ヒロユキくんホントに大丈夫?」


 「......ユキの事は大丈夫」


 何となくだが、ユキさんはめちゃくちゃヒロユキの事を心配してる気がする。


 「ふぇーぇ〜妹ちゃんも居るしリュウトさんも居るししぁわせぇ〜」


 「アカネ、お前酔ってる?」


 「そんなことないですよ〜?」


 「......これは酔ってる」


 「よ、酔ってるね」


 「あら!妹ちゃんまでそんなに言って!この悪い子」


 そう言いながら抱きよせられて撫でられる、もうなんか慣れたので身を任せてるが、ナデナデと言うよりめっちゃぎゅぅうのワシャワシャだ、完全に出来上がってるな。


 「こらアカネ、アオイさんも困ってるだろ離せ」


 「妹ちゃんは困ってません!困ってるのはリュウトさんでしょ?」


 「どうして俺が__」


 「さっきから妹ちゃんのオッパイ見すぎですよ、嫌らしい目でチラチラチラチラチラチラ......」


 「な!?」


 「え!?」


 見られてたの?全然気付かなかった、というか別に俺は見られてもいいんだけど......いや、ほら、考えてみ?男が胸や太もも見られても恥ずかしくないだろ?俺は今そんな感覚。

 むしろお風呂一緒に入ってもいいくらい。

 

 「そそそそんなことないぞ」


 「......リュウト、嘘は良くない」


 「な!?ヒロユキはそっちの味方するのか!」


 「......」


 「ほら!妹ちゃんにバレないようにしてても他の人には筒抜けですよ~」


 「うぐぐ......」


 「ほーら、妹ちゃんのお酒ですよ~」

 

 そういって俺が飲んでいたジョッキをとってリュウトの前に差し出す。

 

 「そ、それが何だって言うんだよ」


 「とりあえず飲んでみてください~?」


 「こここここれを?い、いいんですか?アオイさん?」


 「?、いいよ、その代わりそっちのも後で頂戴ね?」


 「いたごちさまっす!」


 リュウトくんは俺のお酒を飲んだ、と思えば「ぶほぁ!」と吹いて驚愕する。


 「うわ!なんだこれ!アルコールやば!」


 「え!?そ、そうなの?」


 美味しいとは思ってたけど......


 「アオイさん相当お酒につよ......ふぅえ」


 あれ?そんなすぐに酔いが来た?


 「あはは、リュウトさんどうです?」


 「何が!」


 「妹ちゃんと間接キ・ス」


 「ふぁぁあ!!おま!今まで言わなかったことを!」


 そんなに気にすることないだろ、男同士なんだし......むしろ俺がここで気にしてた方が気持ち悪くない?


 「妹ちゃんほら見てーリュウト顔真っ赤」


 「あはは、そうみたいだね」


 「す、すいません!アオイさん!」


 めっちゃ土下座された......なんでや。


 「いいよいいよ〜、むしろ僕とキスする?」


 「なななななななな!?!?!?!?!?」


 「妹ちゃん!!!」


 「じょ、冗談だよ」


 軽いノリなのにめっちゃ怒られた……


 「......悪酔い」


 「でも冗談抜きで本当にこのお酒強いですよ」


 「そ、そんなに強いかな?」


 「かなり......ヒロユキもほら」


 「......別にいい」


 おっと、ここまで来たら死なば諸共。

 ヒロユキにもしっかり酔ってもらうぞ我が弟。


 「ヒロユキ君、ここまで来たらいっぱい飲んでよ?」


 「......一口だけ」


 これがアルハラという奴か。


 「……んぐ!?」



 ヒロユキは一口のんだら速攻で寝おちした。



 「あらら……」


 「アルコールがまわるのも一瞬でしたね」


 寝ちゃったもんは仕方ないのでヒロユキは会話から離脱としてアカ姉さんが話し出す。


 「それで、私やみやさんが居るのにどうして妹ちゃんばっかりなんですか〜?」


 「ばっかりってそんな事__」


 「いいえ!明らかに私たちを見る目と妹ちゃんを見る目が違います!……妹ちゃんの服装も確かに誘惑してるけど」


 うん、そこは反論できない。

 よくよく見ると下乳めっちゃ露出してるし。


 「気にしないで見ていいよ?これはファッションだし」


 「妹ちゃんはそんな事また言って!もーーう!!!妹ちゃんは私が守る!」


 席を立ちながらそう言った瞬間アカ姉さんは立ちくらみの様に後ろに倒れた!


 「大丈夫!?アカ姉さん!?」


 「……むにゃむにゃ」


 うわ、現実のむにゃむにゃ初めて聞いた……限界だったんだろう。

 

 「あらら、寝ちゃったみたい」


 「そ、そうだな」


 「ここら辺でおひらきかな??」


 「そうですね、俺はアカネとヒロユキを連れて行きますからアオイさんは帰ってていいですよ」




 「その......ありがとうね」



 「え?」


 「僕……死のうとしてたんだ」


 「......」


 驚かないリュウト。

 たぶん、アカ姉さんもそんな感じだったのだろう。


 「でも、そんな中、君が来てくれたおかげで……君がこの会議を開いてくれたおかげで……上手く言えないけど、まだ頑張ろうって思えたんだ」


 「当然の事をしたまでですよ」


 「それが当然って言えるのは本当にいい人だね、本当にありがとう…………みんな見てないしおっぱい揉む?」


 なんか恥ずかしくなってちゃかしちゃった。


 「っっっ!!!!???!?じ、じゃぁ……」


 え!?い、いや、いいけど!それで良いのか!?


 「う、うん」


 俺は目を閉じて少し胸を前にする。


 「…………」


 「…………」


 「…………」


 「…………」


 「ダメだ!!できない!!!」


 「へ?」


 「こ、こう言うのはその……結婚とかしてから!ですよ!!!」


 「う、うん!そうだね!」


 うおおお、びっくりしたぁ。

 いや、別に俺男だから良いけどなんか雰囲気がやばかった!


 「その前に絶対に奴隷から解放して自由にさせますから!」












 「うん!助けにきてね!」








 自分じゃどうにもならないから正直に答えた!










 

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