第89話 復活!


 予定時間の10分前、アオイはアンナに選んで貰った服を着て入り口前に来ていた。

 

 「うん、いいわね、完璧よ」


 アンナの選んだ服は、お腹がゴッソリ露出して、大きな形の整った胸の上半分は隠れてるが下半分は乳輪下見えないギリギリの所まで露出している下乳ファッションだ。


 少し動けば服がズレてその胸を全部出してしまいそうだが、魔法の力でどんなに激しく動いてもポロリはない。


 「さて、と私がサポートするのはここまでよ、後は頑張りなさい」


 「......はい」


 その返事を聞いた後、アンナは後ろを向いて夜の町へ消えていく。


 「..................」


 その後ろ姿を黙ってジッと見つめるアオイ。


 「............」


 アンナの姿が見えなくなりアオイは店の前に一人__

  

 「お姉さん今暇?」


 「......あ、え......」


 ボーッと何も考えず突っ立っていたせいで男の集団から声をかけられアオイは少し我に帰る。 


 「暇ならすぐそこの」


 「......ッ」


 「あ、おい!」


 慌ててアオイは店の中に入った。

 どうやら男達は店の中までは追ってこないみたいだ。


 「いらっしゃいませー、お一人様ですか?ご予約ですか?」


 「......あ、え......あ……これ」


 アオイはアンナから貰ってた魔皮紙を見せ店員に渡すと店員はそれを確認した。


 「はい!確認しました、此方へどうぞ!」


 アオイを席まで案内していき、木の引き戸の入り口まで案内した後「ごゆっくりと」と言って去っていった。


 「............」


 中からは魔法がかかっていて声などは聞こえないが……リュウト達が居るのだろう。


 アオイはアンナの言葉、「悔いが無い様に頑張りなさい!」と言われたのを思い出す。


 「悔い......」


 アオイは今までの自分を思い出す。


 此方に来て、悔いがない様に全力で考えて全力で頑張っていた。


 地面の見えないほどの奈落の底。

 その上に架かっているボロボロの橋を慎重にゆっくりと、前だけを見て一歩ずつ歩いていた。


 恐い思いを一生懸命隠すように.....全力で全力で全力で……


 「............」


 だが、アオイは落ちてしまった。

 奈落の底に……暗い暗い深淵に………


 「............」


 落ちて身体がバラバラな中、意識だけあった……


 暗い暗い中、顔だけ上を見ていた、なぜか…………心の中の自分は何かを待っていたのだ。


 「……」


 そして……死ねもせず見ていたら誰かが降りてきた。




 その人物に本能が反応したのだ……バラバラになった手や足は無いが手を伸ばそうとする意志があった。




 「……」



 その降りてきた青年は一度見たことがある程度……



 「……」



 扉の前で立ったまま時間は進み____





 ____物語は進む。


 

 ドアが“中”から開き。



 「リュウトさんですか?ドアが開けれないのなら連絡してもらえれば____」



 

 “ネコミミで赤い髪の獣人”が出てきた。



 「……あ」


 「っ!!!!」



 奴隷No.34。


 アオイと共に同じ奴隷商に居た女性だ。


 「35番……ちゃん」



 アオイは突然のことに真っ白になり頭の中がごちゃごちゃにかき回される。


 なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜと。


 アオイは謎の恐怖に襲われ、その場から逃げようとした____だが!


 「待って!」


 34番はアオイの行動を瞬時に判断してアオイの手を掴む。


 「っ!?」


 その力は華奢な身体からは想像できないほど強く、アオイは振りほどけない。


 「ごめんなさい!でも!あなたをここで逃がしたら......もう会えなくなると思って......」


 「............」


 声が大きく、何事かと他のお客がアオイ達に注目している。


 「その......取り敢えず入ってください」


 「……」


 周りの状況を見てアオイも部屋の中へ入る。


 高級店である《ジョイピー》

 

 扉を開けると、赤い絨毯が敷かれた床の上には、白く美しい机と装飾された椅子が配置されていた。

 壁一面にはお城の絵が描かれた壁紙が飾られ、その美しい模様が部屋に高貴な雰囲気を与えている。


 光は月明かりが魔法の天井を通してそっと差し込み、部屋を明るすぎず暗すぎず、ちょうど良い光で照らしていた。



 ……その中にはリュウト達の姿は無い。


 

 「座ってください」


 34番は一つのイスの背もたれを持ち、少し動かした。


 「............」


 アオイが座ると34番は正面では無く、隣に座る。


 「......元気、でしたか?」


 お互いに目を合わせないり


 「......」


 「そうじゃない……みたいですね」

 

 「......」


 「私達、奴隷は調教という教育期間が終了したらオークションなどで値段が付けられ、特殊な魔法の睡眠カプセルで眠ってお客様から目覚めさせてもらいます」


 「......」


 「それまでは眠ったまま……35番さんや私が買われたのは今からちょうど半年前の出来事です」


 「……」


 「あの日、私は売れ残りました……次のオークションまで寝てるか……そのまま廃棄……」


 「......」


 アオイは34番を横目で見る。彼女の言葉には、苦悩と絶望が込められていた。

 

 「ですが......あの日、最後まで売れ残った私をリュウトさんが買ってくれました、それから一緒に冒険をさせていただき......リュウトさんはこんな私を受け入れて頂き、そして......」


 静かに言葉を紡ぎ、感謝の念が胸に満ちているのを感じた。

 彼女の声には、優しさと希望が込められていた。


 「......」


 「家族と言ってくれたんです、私を......奴隷ではなく、家族だって……」


 「......」


 「あ!申し遅れました、リュウトさんって言うのはあなたと同じ【勇者】の人です、今日はサプライズゲストが来るって言ってたけど先に会っちゃいましたね」 


 「......勇者……リュウト」


 そう、勇者。


 アオイが自分を信じた言葉、そして裏切られた言葉。


 しかし、その役職が今回の様な結果にもなった。


 「そうですよ、リュウトさんです」


 「……リュウト……」


 「そう……私の“今の家族”」


 34番は小さい頃に家族に捨てられ、育ての家族にも捨てられ…………そして、家族の様に慕っていた奴隷仲間も……


 しかし、彼女の印象は今、まったく異なっていた。

 それは、彼女がリュウトとの冒険を経て成長し、変わっていったからだ。

 

 「だから!」


 「!」


 34番は横を向いてアオイの両手を掴み、目を真っ直ぐアオイに向ける。アオイはその真剣な眼差しに目をそらさず、彼の言葉に耳を傾けた。


 「わ、私の家族に……妹になりませんか?」


 「......へ?」


 「奴隷の時から少し思っていたんです、日常の魔法も使えない、女の子の日の対処の仕方も解らない、男の人みたいに他の人の目も気にしないで着替えるところとか心配が耐えません」


 「......は、はい」


 「なので、私の妹にします!」


 「......」


 「わ、私は本気です、いずれあなたを奴隷から解放して私と一緒にリュウトさんと居ましょう!でも、まずは」


 「っ!」


 34番が勢いよく立ち上がり座ってるアオイを包み込むように抱き締める。


 「ここまで頑張ったね、偉いよ」


 「......」


 アオイは今何を思うだろう......34番のしている事は子供にたいしてのそれだ。


 どちらもいい大人......

 違う、大人になって居るからこそ、だ。


 「......あ」


 アオイの美しい瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。


 「……うぐ…………」


 その一滴の涙が、次第に増えていく。

 アオイの鼓動は早まり、身体が震え始める。

 かつて錆びついていた心の歯車が、今、力強く回り始めている。


 人は言葉を持たない時代……赤子の時は泣くことで意思を伝えてきた。


 

 「よしよし。恐かったね、心配だったね。でも大丈夫だから」


 34番はより一層アオイを抱きしめる。


 そして............


 「うぐ……......あ」


 「ん?」


 「ありが、とう......」


 「!......どういたしまして」




 アオイは精一杯の気持ちを言葉にして伝え......それを聞いた34番も泣いた。









 その涙は悲しみから来るものでは無い。


















 

 


 

 


 


 

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