第77話 心がない人形!

 《ナルノ町》


 アオイとアンナは、いつものメイド服姿で、マスターと共に町へと繰り出してきた。

 だがアオイの姿はこの町では目立つのでフードを深く被せて顔を隠す様にしている。



町は今、《ニューイヤーフェスティバル》の真っ只中で、活気に溢れている。

 色とりどりの露店からは、美味しそうな香りが漂い、華やかな装飾が街を彩る。人々は笑顔で歩き、楽しい時間を過ごしていた。

時折、音楽が響き渡り、踊り子たちが優雅に舞い踊る姿が目に映る。

 

 「ところでどこに行くか言ってなかったさね」

 

 「はい」


 「どちらまで?」


 「ちょっとした貴族のとこだよ、昔からの付き合いでね、毎年挨拶に来てくれるが昨日は珍しく来なかったさね、だったらこっちから挨拶にいってやろうかと」


 「町長自ら挨拶ですか?」


 「挨拶と__」


 町長はそこでアオイを見る。 


 「?」


 「ちょっと商談をしに、ね、だからこっちから出向くのが礼儀さね」


 そしてアオイを見ながら不適にニヤッと笑う。

 アンナはそれで理解したようだ。


 「なるほど、解りました、では、アオイのお召し物をどこかで買いましょう」


 「そうさね、どんな服を着せようか迷うさね」


 「私から意見してもよろしいでしょうか?」


 「なんだい?」


 「アオイの魅力は性の方に寄っているかと」


 「ほう?」


 「なので服もそちらの方面で攻めるといいかと思います」


 「あんたはどれくらいで見込んでる?」


 「2ヶ月で5は行けるかと思っています」


 「ほーぅ、そんなにさね?」


 「はい」


 2人してアオイを見てニヤリと白い歯を輝かせる。


 「……」


 そんな2人を見てもアオイは一切心を出していなかった。


 「では、店に行きましょうマスター」


 「そうさね」


 アンナは周りを見渡して近くに良さそうな店がないか探す。

 この国は芸術の国と呼ばれるだけあって洋服店はかなり多い。

  

 「あそこが良さそうですね」


 「ふむ、《ゴールド》か、良い名前さね」


 人々の歓声や音楽が鳴り響く中、町長とアンナは目に留まった看板が輝く洋服店ゴールドに足を踏み入れた。


 「いらっしゃいませー」


 店内は高貴な雰囲気が漂っていて、ゴールドの文字が飾られた看板の通り、贅沢な装飾や高品質な洋服で彩られている。


 アンナの見立て通り、店内にはさまざまな種類の服が並んでいたが、どれも露出が高いものばかりだった。


 そんな中、店員が町長であるブールダを確認すると、急いで奥の部屋へと姿を消した。

 そして、次に姿を現したのは、スラッとした美しいお姉さんだった。


 「こんにちは、ブールダ様。私は店長のタイミと申します。今日はどのようなお探しでしょうか?」


 タイミと名乗る人物もかなりの美人で他の店員に比べてワンランクもツーランクも上だ。


 「今回は私じゃ無く、コイツさね」


 しかし、その際立つ美しさも、アオイの姿には及ばない。

 彼女はゆっくりとフードを取り、その美しい素顔を現した。

 その瞬間、まるで太陽が雲の隙間から顔を出し、世界を明るく照らすかのような光が彼女を包み込み、店内には一時停止する時間のような静寂が訪れた。

 彼女の美しさは、まるで星々が輝く夜空のように、見る者の心を奪い、深く深く魅了していった。


 「こ……これはこれは!良い素材をお持ちですね!」


 店長はまじまじとアオイを見つめ、その美しさに息をのむ。


 「ちょっと失礼」


 そして胸に目が止まる。

 その胸は、まるで宝石のように輝き、華やかなドレスのデコルテを飾る最高のジュエリーのようだった。

 その柔らかな曲線は、美しい谷間を形作り、見る者の心を虜にしている。

 

 「なるほど、こういう人の事も考えておかないとな......」


 「......?」


 「何かオススメはありそうさね?」


 「少々お待ちください、最高の一着を持ってきますので此方で紅茶でも飲みながらどうぞ」


 「ふむ」


 そういってブールダ町長は進められた個室の席で持って来てもらった紅茶を飲む。


 「少しこの子を借りますね?」


 「好きにするといいさね」


 「......」


 「私もご一緒しますね、少し失礼しますマスター」


 「頼んださね、アンナ」


 そこまで言うとブールダはカーテンを閉めた。


 「では、此方へ」


 先程まで店長が居たであろう奥の部屋に連れていかれるアオイにアンナも付いていく。




 ____それから数分後の事だった。




 「こんにちは~です!」


 「......」


 カランカランと店のドアのベルが鳴り、店内に新たな訪問者が現れた。

 一人は見た目が中学生くらいの元気な女の子で、もう一人は無口な男性だった。


 「いらっしゃいませー」


 店員が挨拶をすると女の子も「いらっしゃいましたー!」と返答する。


 「ほら!オシャレの国!ミクラルですよ!いっぱいいっぱい買い物しなきゃですよ!」


 女の子は元気いっぱいに笑顔を振りまき、店内を興味津々に見回す。

 彼女の目は輝き、鮮やかな色の洋服やアクセサリーに興味津々の様子だった。


 「......ユキ、さっきはオシャレな食べ物の国って言ってた」


 「そ、それもあるんです、ですけど!そ、そう!この国はオシャレ全般なんですよ!」


 「……へぇ」


 「その返事、絶対疑ってますよね!」


 「……別に」


 「いいですか!ミクラル王国のオシャレ度は半端ないんです!グリードやアバレーに比べて服の様な装備が安く手に入るのもミクラルの人達がオシャレに妥協しなかった結果なんですよ!」


 「……疑ってないのに……」


 会話だけ聞いてるとカップルの様に聞こえるが、実際に2人を見ると兄妹という言葉が似合っている。



 

 そうアオイ達と入り違いで入ってきたのは__



 「ならここでかっこいい装備を買いますよ!“ヒロユキ”さん!」



 【勇者ヒロユキ】だった。



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