第20話 お酒は二十歳になってから。

「吐きそう」

 

 何故か俺は酔っぱらいの介抱をしていた。

 

 どうやら、俺はまた夢を見ているらしい。普通は夢だと気づいたらすぐに目を覚ましそうなものだけど、これはそう言った類のものではない。


 例の奴だ。


 具合が悪そうに道ばたの電柱の前でうずくまる彼女の背中を優しくさすりながら俺は言った。


「近くに俺の家があるから、そこに行くぞ」


「泊まり!」


「違うわ! 一旦俺の家に避難するだけだ。いつまでもこんな歩道でうずくまっていたら迷惑だっつーの。指一本触れねえよ。いいからいくぞ」


 俺は必要なものしか置いていない男部屋に彼女を案内した。まあ男の一人暮らしなんてだいたいどこもそんなものだろうが。


 俺はスーパーで買ったミネラルウォーターをコップに注ぎ、居間のカーペットに座らせておいた彼女にほらよと差しだした。俺の彼女は顔をしかめながら風邪薬を飲むかのようにぐいっと一気に飲み干した。


 空のコップに水を注ぎながら俺は言った。「あまりお酒に強くないんだったら、吐きそうなるまで無理して飲むなよな……」


「一人っきりの時はこんなに飲まないもん」


 いらないと彼女は首を振った。「酒に溺れるのは嫌い。自分が弱くなった気がするから。でも、あなたと飲むのは好き。あなたに溺れているみたいで自分が強くなった気がするから」


「とりあえず、お前が酔っていることは分かった」


「酔ってないもん!」


「酔っぱらいはみんなそう言うんだよ……」


 酔っぱらいをたしなめる恒例のやり取りをする。それくらい俺も大人になったと言うことだろうか。


 彼女はふらふらしながら呂律の回らない声で。


「だって、酔いでもしないと素直になれないから」


「そう……」


 そんな可愛い言い訳をされたら怒るに怒れない。


 お酒くらい別に好きに嗜んだらいいと思うけど、ここまで酒癖が悪いと思ってなかったのでこれから注意しないといけなさそうだ。そして何よりこの状態の彼女を見るのが癖になりそうで怖い。


「私、今日のデートちゃんと覚えていられるかな」


「それは何とも言えないなー」


 シラフだったらあり得ないデレっぷりとはいえ、まだ意識は保っているほうだと思う。


 まあ、覚えていたら覚えていたでやかましいし、忘れていたら忘れていたで絶対何かしたでしょと問い詰められることになるから、どちらに転んでも俺に取って良い結果をもたらすことはないというのは想像できる。


 彼女は感慨深そうに言った。「覚えているのと、忘れてしまうのってどっちがいいんだろうね」


 俺は答える。


「そんなの良い思いでか悪い思い出かによるだろ」


「でも、良い思い出がありすぎるのもそれはそれで辛いよ。今の現実に耐えられなくなっちゃう」


「そうなったら未来を守るために行動を起こすしかないな」


「そんな簡単なことじゃないよ」


 綺麗事に騙されるほど酔ってはいないようだ。これは昨日のことは忘れなさいと明日迫られることになりそうだ。


 ねえ、と彼女は甘えるような声音で訊いてきた。


「あなたは今まで生きてきて何時が楽しかった?」


 若者に聞くような質問じゃないだろと思ったが。「やっぱ今かな」


「どうして?」


「お前みたいな絶世の美女と付き合えているから」


「バカ……」


 また酔いが回って来たのか彼女は顔を赤らめた。


 俺は訊いた。


「そう言うお前は何時なんだ?」


「分からない。でも、あなたと繋がる未来であったらいいなって心から思ってる」


 素直になれたことに満足したのか彼女はそのまま倒れるように眠ってしまった。気分が回復したら家まで送るつもりでいたのだが、無理やり起こすのもあれかと思ったので俺はそのまま寝かしてあげることにした。


 毛布をかけ、しばらく彼女の寝顔を見ながらひとり飲みした。間違いを起こすといけないのでチータラをつまみにコーラで。悶々とした状態で俺は朝を迎えるのだった。

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