第25話 ハーレム主人公に俺はなる!

 予想に反し、香織は部活に顔を見せなかった。そう何度もバスケ部をサボるわけにはいかないのか、単純に勝手なことをしたばっかりで佐々木と顔を合わせずらいのか。


 もしかしたらこの二人の溝が埋まる瞬間が、この部の本当の目的が達せられる時なのかもしれない。

 

 心境の変化なのか、今日は佐々木も交じって三人で人生ゲームをすることになった。ゲーム内の俺の人生は順調そのものであった。

 

 遊び仲間が増えて、えらくご機嫌な様子の冨樫が人のことをからかうように言った。


「相変わらず、修たんの家庭は子沢山だねー。これは将来お嫁さんになる子は大変だ」


「俺は仕事より家庭を大事にする男なんだよ。疲れているからと言って、セックスレスになるような甲斐性のない男じゃないんだよ」


 別に大意はないが、俺は佐々木を一瞥する。


 佐々木は機械のようにルーレットを回した。まあ、無反応くらいがこいつらしくて俺もやりやすいのだが。内心複雑でもあったり。


 彼女が無口になっている理由は他にもある。ゲーム内でもコイツの人生は波乱万丈。三歩進んで二歩下がるを繰り返す人生だった。


 俺は言った。「にしても、お前運ないなー。神様に見放されているんじゃないの?」


 かぶせるように冨樫がフォローを入れる。


「大丈夫だよ。アスカたん。私が付いている」


 はたしてそれは喜ばしいことなのだろうか。


 案の定、佐々木は微妙そうな顔をしていた。はあ……、と癖であるため息をついて、人の運の総量が同じって本当なのと質問した。


 珍しく弱音を吐く佐々木に、冨樫はそんなわけないじゃないかと冷たく突き放した。さっきの優しさは何処へやら。


 仕方ないと今度は俺が救いの手を差し伸べる。「なあ、昼休みのことだけどさ……」


「何よ。もうあなたに隠してることはないわよ。約束通り、洗いざらい吐いたからね」


「そうじゃなくってだな……。俺が言ってるのは協力してやってもいいぞってことだ」


「どういう風の吹き回し?」


 この前の一件で俺はすっかり彼女の信用を無くしてしまったようだ。俺は弁明する。


「お前に協力するのは義務だと判断したからだ。奇しくもお前と俺が将来を誓い合った仲なら俺がお前に協力する大義名分もあるしな。どうしても彼女を救いたいんだろ?」


 ええ……、と若干戸惑いつつも彼女は頷いた。


「だったら、いいじゃないか。別に俺はお前の行動を間違っているなんて思わないし。今の俺たちは恋愛関係にあるわけではないから、どんな未来を選ぼうがお前の自由だ。半年そこらの寿命なんて別に気にしやしねえよ」


 これが嘘偽りのない俺の素直な気持ちだった。彼女には予想外の答えだったようで。「あなた、結構いい奴ね……」


「惚れた?」


「それはないわ」


 可愛くない奴。未来の俺は彼女のどこに惹かれたのだろうか。


 心変わりされたら堪らないとばかりに佐々木が矢継ぎ早に訊いてきた。


「それで、あの子のこと好きになれそうなの?」


 俺は言葉のチョイスに気を付けながら答えた。「顔は申し分ないくらい可愛いしさ。良い子ってのも十二分に伝わるよ。ただなー……」


「何よ?」


 腕組みをして挑むように真っ正面から見据えてくる佐々木にビビりながらも俺は。「いやさ、どうぞ好きになってくださいと言われるとこっちも身構えるっつうか……、言いたいこと分かるだろ?」


 佐々木は再び幸せが逃げるため息をついて。「だから言いたくなかったのよ……」


「ですよねー……」


「それとは別に、事の発端であるあいつに目を付けたれたと言う問題もあるのよね」


「わ、悪かったって……」


 八方塞がりの状況に冨樫が助け舟を出した。「一つだけあるよ。この状況を好転させる打開策が。まあ、諸刃の剣ではあるけどね」


 眉間に皺を寄せながら佐々木は訊いた。


「出し惜しみするところはあなたの悪い癖よ。策があるならもったいぶらずにさっさと言いなさい」


「部長に彼のことを好きになってもらうのさ」


「無理無理。そっちは鼻から期待してないわ」


 本当にこの女のどこが良かったのだろう。


 冨樫は言った。


「アスカたんは私を何だと思っているんだい。悪名高き死神さんだよー。私の能力で君が彼を好きになった事実を部長に譲り渡すんだよ」


 それは盲点だったわと佐々木が言った。「確かにその方法なら障害はなくなるわね」


「俺はそっちのほうが立ち回りやすいから、全然かまわないけど。お前はいいのか本当にそれで?」


「何よ。今更ね。私はこの部と心中するつもりなの。何度も言わせないでちょうだい」


 どうやらコイツは察しが悪いらしい。言い換えれば馬鹿とも言う。


「いや、だから、今のお前とあの子は運命共同体なんだろう。この取引をしたらお前も俺のこと好きになっちゃうんじゃないの?」


「え……」


 完全に固まってしまった佐々木はもはや使い物にならないので、俺はちゃんとそうならないような策があるのかを冨樫に尋ねた。


「残念ながら。今までのもそうだったけど、これはアスカたんが部長に寿命を分け与えることで初めて成立する策だから」


「そうよ、彼をそうさせたらいいじゃない。そのほうが手っ取り早いわ」


 何を的外れなことをと冨樫は呆れながら。「アスカたんはそれでいいかもだけど、もし部長が彼と結婚しなかったら彼は死ぬまで叶わぬ恋をし続けることになるんだよ。そんな惨めな人生はないねー。契約が引き継がれるのはタイムスリップする本人だけだから」


「さすがにそこまでは俺も承認しかねるぞ」


 無言のプレシャーに耐えかねた佐々木が。


「あー、もう、やればいいんでしょ、やれば。ちょうど疑わしいと思ってたところなの。あなたの一方的な片思いというならまだしも、この私があなたみたいな下品な男を愛しただなんてやっぱりどう考えてもおかしいわ。それを確かめるいい機会よ」


 自分に言い聞かせるように言うのだった。「そう、何かの気の迷いだったのよ……」


 俺は今朝見た夢の内容を思い出していた。


 三度目のデートということもあってか、そろそろ何かあるんじゃないかと期待と一抹の不安が入り交じったような顔でデート中何度も俺の顔をちらちら見てくる未来の花嫁と、目の前にいる佐々木のギャップに戸惑い、先行きが不安になるのだった。

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