第22話 女性は皆怖い一面を秘めている。

「絶対、何かを隠しています!」


 佐々木が部室兼自宅から出て行くと同時に、スカートの中覗いたでしょというくらいの勢いで香織が詰め寄ってきた。


 一見、デートをドタキャンしても笑って許してくれそうな温厚なタイプに見えるが、同時に、隠し事は許さないという怖い一面も持っているようだ。まあ、女性なんて蓋を開けてみれば大体そうなのかもしれないけど。結婚した暁には帰りが遅くなっただけでどこ行ってたのとか、誰と飲んでいたのとか、しつこく問い詰められたりするのかもしれない。


 どちらにしても内向的な俺には無関係な話のような気もする。


「そう……」


 彼女を宥めるためにも、とりあえず相槌だけは打っておいた。


 彼女はしっかりと椅子に腰を下ろしてから、嘘を見抜くのは昔から大得意なんですと言った。記憶もないのにどうしてそんなことが言えるのだろう。


 未だにどっちの味方をしたらいいのか微妙な立ち位置にいる俺は遠くを見つめながら言った。


「嘘ね……」


「何か心当たりでも?」


「あっ、いや、君の成仏と俺たちの結婚がどう結びつくんだろうと思ってさ」


「それは分かりません。でも、向こうがその気ならこっちもやり方を変えるまでです」


「彼女を出し抜ける策が何かあるっていうの?」


「はい!」


 と珍しくヒートアップしているみたいで彼女は強気な姿勢を崩さない。「三日月ちゃんと契約を交わします」


「え、でも……」


「あなたの言わんとするところは分かります。私は幽霊なので通常未来はありません。しかし、お忘れですか? 現在の私は幽霊であって、幽霊じゃないことを。私の中にある佐々木さんの未来を活用させてもらうのです」


「なるほど……」


 こういうのを灯台下暗しというのだろうか。ちょっと違う気もするが。


 香織は言った。


「手始めに同じものを取引してみましょうか」


「それはつまり、一対二のデートってこと?」


「佐々木さんがあなたの身代わりとしてデートしたお相手って誰だか分かりますか?」


「クラスのチャラい男子だけど……」


 イケメンという重要な情報はあえて省いた。


 記憶のない彼女には当然思い当たる節はないようで進んで危ない橋を渡ろうとする。


「では、私はその方とデートしてみますね。何か分かるかもしれないですし」


「いや、それは……」


 一瞬佐々木の鬼気迫る顔が頭をよぎったが、何か問題がと可愛らしく首を傾げる香織の裏表のない顔で塗りつぶした。


 自分が知っていることを全て話した上で今後どうするかを相談してくれる彼女と未だに何一つ話してくれない不親切な彼女とでは、そもそも信用の度合いが違う。


 そうだねと俺は無理やり自分を納得させた。「この部の部長は君だし。反抗する意思を示しておかないとアイツを調子に乗らせるだけだしなー。俺も協力するよ」


 あいつには後でフォローを入れておけば問題ないだろう。


 香織は部長とは思えない低姿勢でありがとうございますと頭を下げ、不安そうに副部長を見つめた。


 この計画を実行するには彼女の協力が必要不可欠なのだ。


「どちらの味方でもないなら、協力してくれるよね? 三日月ちゃん」


 副部長は人の形をした人生ゲームの駒を手で弄びながら。「協力するも何も、私は立場上君との取引を断れないんでね」


 香織はやったと小さくガッツポーズを決めた。


「まずは何時ものように修二さんが取引をして、その後で私がその方とデートするように取り計らえばいいんですよね?」


「それだと君の取引まで上書きされちゃうから、まずは君がそのチャラ男とデートするように私と取引を交わし、一旦寿命の取引をやめてから、彼が上書きをする。そうすれば、君の望む通りの結果になるよ。でも、本当にいいのかな、それで?」


「はい。未来は自分で選択するものですから」


「私は君に言っているじゃないんだけどなー」


 軽蔑のこもった視線は俺に向けられていた。「約束を守らない男は嫌いだねー」 

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