第18話 幽霊部員の部長

「あの、どうかしました? さっきからぼーっとしてますけど」


「いや、ちょっと考え事をしてたんだ」


 それよりも、どこか行きたいところあると俺は話題を変えた。


 俺は全然デートに集中出来ずにいた。今も何のプランもなく、ファミレスで食事を済ませたほどだ。それでも、俺の将来の花嫁は文句も言わずにチキン南蛮定食を食べていた。


 それこそ全て夢だったと言われても受け入れるくらい俺には出来たお嫁さんだった。こんな可憐な女の子と幸せな未来が築けるならもうこの子が何者だろうといい気がしてきたが、そうも言っていられないのだろう。


 そうですね、と香織はしばらく考えた後に耳を疑うような爆弾発言をするのだった。


「それじゃあ、私の家に来ませんか?」


 いやいやいやと俺は若干食い気味に。


「道徳上それはよろしくないでしょう。それに、親とかその他もろもろ大丈夫なの?」


「大丈夫です。私に親はいませんので。いるのは愉快な同居人が一人だけ。ついでに、その方をあなたに紹介したいのですよ」


「じゃあ……」


 と押しの弱い俺は結局お言葉に甘えさせてもらうことにした。親がいないと言う暗い話題が出た後でなんとも断りずらい空気になった感は否めない。


 こういうのは案外男が過剰に気にしているだけで、肝心の女の子のほうはなんとも思っていないということはよくあることだ。男である俺がしっかり自我を保ちさえすれば、間違いが起こることはまずないはずだ。


 ストーカーに間違われないように一定の距離を保ちながらも、俺は案内してくれる彼女の後を追った。この後どこにでも行けるように近場で食事を済ませたのが功を奏したようでここからそんなに遠くないらしい。


 目的地周辺になったのか、香織は歩みを止めた。


「ここです!」


「ここって? あのー、学校ですけど」


 思いっきり見覚えのある場所だった。そして連れて来られた先は案の上見覚えのある空間だった。


 香織はただいまと部室の扉を開けた。早かったねと口に物を入れながら出迎えてくれたのはこれまた馴染みのある顔だった。おやおやとにやにやしながら同居人は言った。


「お二方さん、まさか学校で大人の階段を上ろうってのかい? 中々アブノーマルな趣味をお持ちで」


「三日月ちゃんったらまた散らかして」


 手のかかる妹のお世話をするように、香織はポテトチップスや菓子パンの食べカスが無残に散らかった長机を掃除し始めた。


 良い奥さんになりそう。なんて今は考えている場合ではない。


 俺は訊いた。


「あのー……、状況が掴めないんだが」


「ちょっと事情があって三日月ちゃんと二人でここに住まわせてもらっているんです。先生には内緒にしておいてくださいね」


「そこらへんは私とアスカたんが上手くやってるから心配ご無用だよー」


「話についていけない人が一名います」


 さすがに説明をはしょりすぎたことに気づいた香織が補足してくれる。


「実はこの部、私が作ったんですよね。とはいえ、私は名ばかりの部長で、修二さんが入部したことを知ったのも最近ですけど」


「幽霊部員の部長って君だったの……」


 このいかれた部の存在を知ってたり、佐々木と繋がりがある人物は俺の知る限り彼女だけだったので大した驚きはなかった。


 だがしかし、それはまだ言葉の表側を読み取っているに過ぎなかった。


 香織が言う。


「はい。この部は私が成仏するためにある部ですから」


「ちょ、ちょっと待って、成仏って?」


「だからお化けなんです。正真正銘の幽霊部員です」

 

 うらめしやーと香織はポーズを決めた。


 あれ、言ってなかったっけ、と毎度のごとくとぼけて見せる冨樫に俺は関西人かというほど全身全霊の力を込めてツッコむのだった。


「誰もそっちの意味として捉えねえよ!」


 俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。


 血行が良くなったところで俺は言う。


「いや、ちょっと待って。普通に注文を取ったり、大勢の中に混ざってバスケの練習してたりしてたじゃないの。今だってこうして俺と普通に喋っているしさ」


 うーんどう説明したら、と難しい顔を浮かべながら香織は解説した。「現在の私は幽霊であって、幽霊じゃないので」 


「意味が分かりませーん」


 何時も佐々木に投げっぱなしで名ばかりの副部長が分かりやすい説明をしてくれる。


「他人が犠牲にした寿命で生きている。こう言ったらお分かり頂ける?」


 俺は、香織の顔を見て。


「それって、佐々木の……」


「はい、私は彼女が生きる一日一日の寿命を切り取って生きてるんです」


 自分が生きていることを確かめるように心臓に手を当てて彼女は言った。「これから、あなたにお伝えする話は全て事実です。ちょっと複雑ですが、あなたにとっては大事なお話ですので、ついてきてくださいね」

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