第16話 男の約束

「それで、お前はこの部でいったい何を成し遂げたいんだ?」

 

 俺の隣で退屈そうに足をばたつかせている冨樫には悪いが、今日はボードゲームよりも真剣な議論を交わしたかったので、部活の時間になると俺はさっそく本題に入った。

 

 ちなみに、部長は今日もサボりだ。はたして卒業までに会うことはあるのだろうか。

 

 何時ものように腕組みをしながら、佐々木は質問に質問で返すと言う横柄さを見せたのであった。


「今朝のホームルームで近づいてきた奴らのこと覚えてる?」


「それってあのチャラい奴らのこと、お前案外ああいうタイプの男が好きなんだな?」


 別に軽蔑するつもりはないのだが、口調は限りなくそれに近かった気がする。佐々木は名誉棄損だとでも言うように早口でまくしたてたのだった。


「笑えない冗談はやめてちょうだい。私はああいう人種を見ると心底吐き気がするの」


「ああいう人種って言うのは今が楽しければそれでいいみたいな思考の奴らのことか」


 そうよと佐々木はこくりと頷いた。


「けどよ、お前が言える立場なのか。将来を犠牲にしてまで、青春を謳歌する。この部とやっていることは大して変わらねえじゃねえか」


 こりゃ一本取られたねアスカたん、と冨樫が声を押し殺すようにクスクスと笑った。どっちの味方よと佐々木は一瞬冨樫を睨みつけて。「違うわ。私たちがやっているのは過去と未来を繋げる行為。似て非なるものだから」


「ふーん」


 具体的な表現を避けてる時点で図星のような気もするけど。ここは、突っ込まないでおいてあげることにした。またがみがみ言われるのも面倒だ。


 彼女との喧嘩において、こちら側が折れるほうが正しいと俺の第六感が言っている。


「それで、お前は具体的に何をどうしたいんだよ」


 俺は一旦脇道に逸れた話を正しい方向に戻した。「そろそろ何をしているのかくらい教えてくれるんだろうな?」


「だめよ。今はまだ話すタイミングじゃないわ」


「そう言うと思ったよ……」


「けど、信じてちょうだい。私がしていることはあなたの将来を保護することでもあるの。いずれちゃんと話すから。その時が来ればね」


 ここまでのけ者にされて信じろと言うのはさすがに無理なお願いというものだろう。しかし、どうしても退部する気にはなれなかった。それくらいこの二人からは悪意と呼べるものを感じなかった。


 それに何より、ここにいると居心地が良いのもまた事実だった。まるで物語の世界に入ったみたいで毎日が楽しい。


 人とは違う生き方が、こんなにも心地いいなんて知らなかった。


 要領を得ない話はこの辺にしましょうと佐々木は話を区切った。


「今日あなたを呼んだのはそれが目的じゃないの。予めあなたに注意を促しておかなければならないことがあるのよ」


 怒られる前に俺は自供した。


「次は十分睡眠を取ってから彼女とのデートに望むことにするよ」


「まさか寝たの?」


 俺は目を逸らす。


 佐々木はため息をついた。「そうじゃなくて。今日会ったあのゲスな男をあの子に一歩も近づけないでほしいの」


「あの子って言うのは文字通り彼女のことだよな?」


「そうよ。それ以外はあなたのしたいようにしてくれて構わない。けれど、これだけは約束してくれる?」


 悪い虫がつくことを危惧しているのか。それとも。


「私は約束してくれるかって聞いているんだけど?」


「ああ……。約束するよ」


 佐々木の怖いくらいの圧に俺は頷くしかなかった。


 彼女はそれっきり腕を組んだまま動かなくなった。先が思いやられるねとでも言うように冨樫が両手を上げていた。

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