第15話 女もやることはやっている。

 俺は非常に頭を悩ませていた。


 昨日は現実で将来の花嫁とデートをし、夢の中でまた別の女の子とデートをし、俺はいったい何をしているのか。


 俺が欲していたのはどこにでもありそうでなかなか手にすることが出来ない甘酸っぱい青春の一幕だったはずである。そして俺は、冨樫の力を借りることによって、運命の人とデートをすることに成功した。それなのに、どうしてこんなに釈然としないのだろう。


 気持ちがぶれるのでなるべく考えないようにしているのだけど、教室の中に入ると、否が応でも夢のことを思い出してしまうのだ。


 原因は言うまでもなく、この教室にいるとある人物の存在にある。不愛想な顔で俺の席まで近づいてくるその姿が、俺には夢の中でデートをした女の子とダブって見えるのだ。


「昨日のデートどうだったの?」


 俺は目を逸らしながら言った。


「ま、まずまずってところかな」


 佐々木は一瞬で俺の嘘を見破り、「その感じは終始尻込みして彼女を上手く楽しませてあげることが出来なかったのね」


 はあ……、と失望とも呆れとも取れる深いため息をついた。いっそのこと俺はそこで開き直って見せた。


「お前の言うことを無視して、勝手なことをしたからとでも言いたいのかよ」


「そこはもうどっちでもいいわ」


 あれだけ怒っていたにも関わらず、佐々木は、ティッシュを丸めてぽいっと捨てるかのようなぞんざいな態度を取った。


「問題は、あなたがこれからもデートを重ねていくのかどうかってことよ」


「ここまで来たら俺も後戻りできないからな。取引する前はまさかあんな美少女が来るなんて夢にも思わなかったから」


「そうね。あなたには勿体ない彼女だわ……」


 冗談っぽいトーンで言われるならまだしも、しみじみと言われてしまうと、なんて反応したらいいのか分からなくなる。


 紛うことなき事実なので何も言い返せない。


 恒例の気まずい時間が訪れる。お互いなるべく視線を合わせないようにしていると、普段なら絶対に近づいてこないであろうチャラチャラした男が俺の席に近づいてきた。


「佐々木、昨日は楽しかったぜ」


 チャラ男は俺など目もくれず、開口一番そう言った。


 転校したばかりということもあって、ほとんどのクラスメイトの顔と名前が一致しないのだけど、さすがに彼の名前は記憶している。


 クラスで一番偉そうにしている男子ではっきり言って好きなタイプではない。無駄に顔は良いので、女子には人気がある模様だ。


 今度またデートしようぜというチャラ男のお誘いに、「気が向いたらね」と佐々木はかなり面倒くさそうに応対した。決して深い仲ではなさそうで俺は一安心する。


 すると、ハエが群がるように、今度はビッチが数人俺の席に近づいてきた。


「ねえー、何の話してるのー?」と語尾を伸ばしながらチャラ男にすり寄る様は可愛さを通り越して痛さしかなかった。


 お前たちには関係ない話ー、とチャラ男は勝ち誇ったように言った。自分が巻き起こした事態なのに、佐々木はまるでごみを見るような目で彼らを見ていた。


 リア充がいなくなったところで俺は訊いた。


「お前もやることはやっているんだな……?」


「悪い?」


「別に、お前がどこの誰とよろしくしてようが俺の知ったことじゃない」


 とまあ強がってはみたものの、自分の好きなアイドルが結婚をして誰かのものになってしまったくらいの喪失感が俺の中にあった。


 その原因について考えることは、今後の俺の人生を狂わしかねないのでやめておいた。


「そう言えば、言わずとしれた処女厨だったわね……」


 俺は答える。


「ああ。だから、お前は攻略対象から外れた」


「吉報と受け取らせてもらうわ」


 相変わらず、ジョークの通じない奴である。


「それよりも、自分が幸せになったからって部の活動を疎かにするのは許さないわよ」


 俺は言った。


「活動って言ったってだな……。ほとんど何もしてねえじゃねえか。この上お前らはまだ俺に何かさせるつもりなのか」


「いいえ。ここからは私の目的。私が将来を犠牲にしてでも成し遂げたいこと。もちろん、あなたもこの部の一員として最低限の協力はしてもらうからね」


「それは、一向に構わないけど、普通未満の俺の将来が役に立つかどうかは疑問だな」


「むしろ、あなたにしか出来ないことなのよ」


 彼女の一言により一層謎が深まるのだった。

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