第13話 同じ夢は二度と見ない。

 俺はまたしてもあの空間に迷い込んだ。

 

 すぐに前回見た夢の続きだと理解した。感覚がないだけで、意識はエナジードリンクを飲んだかってくらいはっきりしている。自分がこれから何をするかも分かっている。

 

 今日は俺の記念すべき初デートの日で、現在は最愛の彼女が待ち受ける公園まで一歩一歩噛みしめるようにゆっくりと向かっているところなのだ。

 

 朗らかな出迎えを期待していたのだが、どうやら俺の彼女はそう言うタイプではないらしい。ベンチに座り、腕を組んで足音が響くくらいの激しい貧乏ゆすりをしていた。

 

 彼女は立ち上がって。


「遅い!」


 いやー、わりいわりいと俺は謝罪した。


「何その気持ちのこもっていない謝り方。あんた、心の底から悪いって思ってんの?」


「いいや。まったく!」


 なによそれと彼女は怒り心頭の様子だ。


 俺はため息交じりに。


「だって、まだ待ち合わせ時刻三十分も前じゃん。――なのに遅いって、お前どんだけ楽しみにしてたんだよ」


「これは、そのー……。映画が楽しみでしょうがなかったの!」


 痴話喧嘩もほどほどに、俺たちは生まれて初めてのデートを楽しむことにした。


 永遠と続く先の見えない道を二人で歩いていく。彼女は身長が高いので歩幅を合わせる必要はなさそうだが、慣れないヒールのせいか、足元がおぼつかないので細心の注意を払っておかないといけないことには変わりない。


 目的地に向かって快調なペースで進んでいると、彼女が、ふくれっ面で訊いてきた。


「なんであんたそんなに飄々としていられるわけ?」


 俺は得意げに答える。


「誰かさんがガチガチになっているおかげで俺は、良い感じに平常心を保たせてもらっているわ。ありがとな」


「私が緊張しているとでも言いたいの?」


「あれれ。ド緊張の間違いじゃないの?」


 ムキーと彼女は乱暴に頭を掻きむしる。


 ――場面が変わって、今度は、高校生が行くとは思えないような気の利いたレストランで食事を取っていた。


「最後に一つ訊いてもいいか?」


「エッチなお願いには応じないからね!」


 と彼女は自分を抱きしめて身を守った。


 そんな期待はこれぽっちもしていないんだけどなーと彼女の貧相な胸を見ていると、凄まじい殺気を感じたので軽く咳払いをしつつ、俺は本題に入った。


「そうじゃなくてだな。今まではなんとなく避けて来たけど、この機会に、初めて会った時のことを訊いといたほうがいいんじゃないかと思ってな」


「前は、興味ないって言ってたじゃない」


「あの時と今とでは感情の向き合い方が違うだろ。あの時は赤の他人でしかなかった。だけど、今はこの世で一番大切な恋人だ」


「あんた自分が恥ずかしい台詞を言っているって自覚ある?」


 その割に頬を真っ赤に染めているのは彼女のほうだったが。俺はこのように続けた。


「まあ、言いたくなかったら無理に言う必要はないんだけど」


 まだ納得いっていない様子だったけど、彼女は語り始めた。


「別にあの時言った言葉に偽りはないわ。本当に、なんとなく生きるのが馬鹿馬鹿しくなっただけ」


「そう……」


「ただ、本気で死のと思っていたかと問われると違ったかも。死に直面すれば彼女の気持ちが少しは分かるんじゃないかってね。馬鹿みたいだよね。そんなわけないのにさ」


「彼女って?」


「高校で自殺した子。私が殺したの」

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