第10話 波乱万丈な展開は人生ゲームの中だけで十分だ。

 実質この部を取り仕切っている佐々木が今日は風邪をこじらせたと言うことで、学園のアイドルと入れ替わるような形でやって来た冨樫とのほほんと人生ゲームで暇をつぶしていた。

 

 以前ここでしたトランプの大富豪と言い、二人でやって楽しいものじゃないだろうと初めは俺も乗る気ではなかったのだが、彼女のユーモアさも見事にプラスされこれはこれで楽しいかもと思い始めていた。

 

 将来の伴侶は冨樫でしたと言うオチでも何一つ不満がないくらい俺は彼女のことを気に入っていた。人間かどうか疑わしいので口説こうなんて気にはならないけど。この親しみやすさと大きな胸があれば、クラスの男子にも密かに人気があるのではないだろうか。

 

 そう考えるとこの学校の女の子は粒ぞろいなのかもしれない。中身はともかく、見た目だけで言えば、佐々木は上玉も上玉。佐々木の推しメンである藤林香織も、彼女に負けず劣らずのポテンシャルだった。それからもう一人、俺はまだお目にかかったことはないが、俺と同時期に転校してきた女の子もかなりの美貌の持ち主だとの噂である。

 

 庶民には一切関係ない美人の見定めより、俺にとっては人生の伴侶を探すことのほうが先決だ。

 

 俺は人生ゲームのルーレットを回しつつ、「なあ、お前の力は本物なんだろうな?」


「どういう意味かな?」


 冨樫は手に入れたお札を満足そうに数えながら答えた。俺はゆっくり駒を動かして、


「今朝からイベントもフラグも何一つ発生しないんだが」


「己の現実が受け入れられないからって、人に八つ当たりするのはどうかと思うなー」


「うっ……」


 反論できなかった。


「なんてね。現時点で出会っているかどうかは別として、君の結婚相手はどこかに必ずいるから安心してくれていいよー」


「どうして、そんなことが言えるんだよ?」


 これさと冨樫は指パッチンをして見せた。


「それがどうかしたのか?」


「実はこれは合図でも、格好つけでもなく、確認作業なんだ。私の能力が発動するとパチンと綺麗な音が鳴り。将来起こりえない出来事であったり、君の生涯分の運を使っても果たせない願いだと音が鳴らないって仕組みなんだよねー」


「お前さ、そういうことは最初に説明しろよな。こっちとら今日一日悶々と過ごして、生きた心地がしなかったっていうのに」


「いやー、めんごめんご。まあ、結果オーライっつーことで」


「だから、まだ何も解決してないんだっつーの」


 しかし、自分でもどこか半信半疑だったけど、まさか俺が結婚することになるとは。人生なるようになるものである。自殺者に向けて使う生きていればいいことあるという常套句も案外捨てたものではないかもしれない。


 ただそれ以上に悪いことがあるというだけで。


 とりあえずホッとした。


「学校でそれらしい人には出会わなかったの?」


 俺は答える。


「一人だけ……」


「なんだ、いるんじゃない」


「でもなー……」


「何か引っ掛かることでもあおりで?」


「引っ掛かるっつーうか、あんな可愛い子と結婚している絵が浮かばないっつーうか」


「わっほーい! 可愛い子と子ども作り放題だぜとここは素直に喜ぶところだろうよ」


「お前はポジティブだな。悪いが、俺はぬか喜びだけはごめんだぜ。これでも俺は謙虚堅実をモットーに生きてるんでね。じゃなきゃ、もっとお手軽な方法で解決してるし」


「じゃあ、いっそのことはっきりさせてみる?」


「どうやって?」


「今ここで将来のデート権を犠牲にするんだよ。そうすれば一発さ。まだ出会ってもいない人間とデートすることはさすがに出来ないからねー。というか、君はもう後には引けないと思うけど」


「そうだな……」


 確かに。今すぐ恋人を作る手段としてこのやり方は悪くないけど、まだ子どもで結婚というものがあまりピンと来なかったとはいえ、将来結婚する相手を取引の材料に使うのはあまりにもリスクが高すぎたかもしれない。


 とまあ、過ぎたことを後悔しても仕方がない。「やってみてくれ」


 よーしと冨樫は再び指パッチンの構えをした。パチンと綺麗な音が鳴ると同時にLINEの着信音が鳴った。


「メールだねー」


 俺はズボンのポケットからスマホを取り出す。『今度の日曜日学校近くの公園で待ってますね』という半ば詐欺めいた内容のメールだった。


 スマホの画面を冨樫に見せると。


「最後に一つだけ警告しておこう。君は将来のデート権を代償にしただけで、好きという感情を代償にしたわけではない。あくまでも、その子は君とデートすることに不信感を持っていないってだけだから。いきなりキスなんてしようものなら平手打ちを食らうことになるので、欲望をさらけ出すのもほどほどにしておいたほうがいいよ」


「童貞にそんな勇気はないから安心していいぞ」


「それはなんていうか。説得力抜群の台詞だねー」

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