将来を犠牲にして、たった一度の青春に全てを捧げてみませんか?

佐原大希

第1話 可愛い子の処女はDQNなヤリチンに奪われると相場が決まっている。

 帰り支度をしていると、美女がてくてくと俺の席に近づいてきた。


 サラサラのロングヘア、切れ長つり目で、右目の下に特徴的な泣きぼくろがある。胸部は心許ない感じだけど、ぶっちゃけかなりタイプの女の子だった。

 

 普段ならこんなラブコメ展開起こるはずないのだが、今日は非モテの俺でも唯一脚光を浴びる特別な日なのだ。

 

 五月も終わりに差し掛かった梅雨入り間近の中途半端な時期に俺は転校してきたのであった。


「ちょっといいかしら?」


 だが、転校生恒例とも言える怒涛の質問攻めにあい、俺は心身共に疲れ切っていた。そういうわけで、俺は美女とお近づきになる一生に一度あるかないかのまたとないチャンスを不意にしてしまう。


「悪いんだけど、質問には散々答えたから、何か知りたいことがあるなら他の奴と情報を共有してくれ。そういうのは女子の得意分野だろ?」


 心外だとでもいうのに、彼女は眉間に皺を作った。


「何を勘違いをしてるのか分からないけど、あなたの個人情報になど私はミジンコ並みに興味がないわ」


「あっそう……」


 喋り方と言い、目力と言い、気の強そうな女だった。


 俺は訊いた。「だったら、何の用だよ?」


「あなた、部活に興味ない?」


 どうせそんなことだろうと思った。あからさまな部活の勧誘に俺はそっぽを向いた。


「答えはノーだ。悪いが他を当たってくれ」


「まだ運動部かも文化部かも言っていないじゃない!」


「帰宅部志望の俺にとっちゃ、どちらもくだらない部だということには変わりないな」


「現実は漫画のようにいかないって言いたいんでしょ。そんなあなたにピッタリの部」


「俺の話聞いてた?」


 変人はマイペースを貫き。「私さ、青春の一ページと言われる人生の教科書で納得いかないことがあるんだよね。聞いたらあなたも一人の男性として共感してくれるはず。ねえ、何だと思う?」


 俺はぶっきら棒に答える。


「知らん」


「それは、DQNなヤリチンに可愛い子の処女が軒並み奪われてしまうってことよ!」


「はあ?」


 美女の爆弾発言に全員が全員振り返った。


 所構わず彼女は続けた。


「あれが、私はどうしても納得できないの。だからその事実を変えるべく、こうして、あなたに部活の勧誘をしているというわけ」


「なんでそこで俺の名前が出てくるんだよ」


「あなた、藤林香織ふじばやしかおりって女の子知ってる?」


「生憎テレビはあんまり見ないんでね……」

 

 彼女は初めから決められた台詞を言っているかのような早口でまくしたてるように。


「有名人と言っても、この学校の中での話。学園のアイドルと言ったらイメージしやすいかしら。あなたが部に入ってくれるならその特典として、私があの子の処女をあなたに引き渡してあげる」


「君、自分が何を言ってるか分かってる?」


 放送禁止用語すれすれの発言もそうだが、お前のものは私のもの、私のものは私のものとでもいうように、乙女の純情を引き渡そうとしているところに俺は狂気を感じた。


 彼女は忠告など無視して、言葉を継いだ。


「別にこれは冗談でも、三ヶ月で十キロ痩せられると言った類の安い詐欺でもないわ。とにかく、興味があれば明日の放課後B棟一階にある部室まで来て。言っておくけど、これはあなたのためを思って言ってるのよ。良い返事を待ってるわ」


 言いたいことだけ言うと、自分はそそくさと帰っていった。こうして、転校初日から俺は変なのに目を付けられたのであった。

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