第122話 お前のモノは俺のモノ
—1—
「
「後先考えずに頭から被ってるからだろうが」
「それを言われたらぐうの音も出ないすけど、この暑さじゃ仕方ないっすよ。無人島マジヤバイっすね」
「こんなんでバテてたら3日目まで持たねーぞ」
幾度とない戦闘を突破し、山を越えて西エリアへとやって来た
西エリアは海水が細い道のように何本も入り込んできていたり、ちょっとした砂浜があったりと多種多様な戦闘が想定される。
当然、森も広がっている。
ここから北エリアを目指すとなると、小さい山や崖を複数越えなくてはならない。
とは言っても東エリアから北エリアを目指す場合も似たような地形になっているため、一概にどちらのエリアが良いとは言えない。
「うお!?」
門倉が突然声を上げて顔を勢いよく左右に振った。
「どうした?」
「すいやせん。蜘蛛の巣が顔に引っ掛かったんでびっくりしやした」
「ったく、蜘蛛の巣如きでいちいちデカイ声出すな。敵に気付かれるだろうが」
「敵って言っても山を越えてから誰とも会ってないっすよね。あ、そっか。俺たちが全員倒したからっすね」
能天気に話し続ける門倉を見て、浮谷はとうとう相槌を打つこともやめた。
山を越える際にウォーミングアップとして数グループを撃破した。
しかし、それはいずれも浮谷と門倉よりも格下の相手だった。
浮谷が浮遊の異能力で相手を引き寄せ、門倉が仕留める。
門倉が仕留め損ねても代わりに浮谷自身が校章を砕く。
ほとんどがこのパターン。
でも、相手が序列7位以内だったらどうなっていたか。
門倉の異能力は確かにチートと言われるほど強力だ。
1度異能力を発動してしまえば9割の確率で勝利を掴むことができる。
だが、発動にはとある条件がある。
浮谷はその条件を満たすべくアシストをしなくてはならない。
プライドの高い浮谷がアシストに回ってでも勝利を欲している。
勝つためならやり方は選ばない。
絶対に学院のトップを獲る。
それは憧れていた
「できれば今会いたくはなかったな」
生暖かい風が吹き、草木が揺れる。
太陽の熱を吸収した地面から熱気が上がってくる。
普通なら立っているだけで汗が噴き出てくる暑さ。
「序列3位
銀髪蒼眼の少女がどこまでも涼しそうな顔をして2人を見つめていた。
—2—
北エリアで岩渕くんが動き出した様子を遠目で確認した私は戦いに巻き込まれないように西エリアに移動していた。
2日目からは教師も参加する序列戦。
これは私の予想だけど、教師は序列の高い人を中心に狙ってくると思う。
説明では視界に入った生徒に攻撃を仕掛けると言っていたが、どこまで本当なのかは誰にもわからない。
現在序列3位に位置しているということもあってなるべく1日目は穏便に済ませたい。
そう思っていたのだけど。
「できれば今会いたくはなかったな。序列3位
浮谷くんがこちらに手のひらを向ける。
瞬間、私の体が地面から離れる。
「門倉やれ」
門倉くんが腕を振りかぶりながら突っ込んできた。
浮遊の異能力を使われると身動きが取れなくなる。
でも、それだけでは脅威にはならない。
「!?」
門倉くんの拳を氷の盾で阻む。
すかさず門倉くんの腕を掴み、体を凍らせるべく冷気を広げる。
が、浮谷くんは門倉くんもろとも私を宙に投げ飛ばした。
「氷剣ッ」
体から冷気を噴き出して素早く氷剣を練り上げる。
その隙に門倉くんが私の手から逃れたが仕方がない。
「
地上にいる浮谷くんから放たれた岩と石を氷剣で斬り伏せる。
どうやら私に対して使っていた浮遊の異能力は解いたみたいだ。
その証拠に体が重力に従って地面に吸い寄せられていく。
「流石にこのレベルとなると一筋縄ではいかないか」
浮谷くんが落下地点で私のことを待ち構えると、細かい石や木の枝を中心に一斉に放ってきた。
「
普段はポイントを絞って使う盾だが、今回は体全体を守るために薄く広げて展開した。
バチバチと石を弾く音と共に衝撃が伝わってくる。
空中で体勢を入れ替え、飛び込みの選手のような形になると、氷剣を浮谷くんの校章に向けて伸ばした。
「俺たちの勝ちだ」
勝利を確信して浮谷くんがそう呟いた。
背後から高速で迫る影。
浮谷くんの攻撃ばかりに気を取られていて門倉くんから意識が逸れていた。
門倉くんの手が私の足に触れる。
だが、もう遅い。
まずは浮谷くんを仕留める。
私は氷盾で石の礫を全て弾き返し、氷剣で浮谷くんの校章を突き刺した。
はずだったのだが。
「氷剣が無い……」
私の手から氷剣が消えていた。
「うぐっ!」
地面に叩きつけられ全身に痛みが走る。
そのすぐ横に門倉くんが降り立った。
「ギリギリ間に合いやした」
「よくやった」
何が起きたのか理解が追いつかない。
とりあえず『
「なんで? 異能力が使えない!?」
いくら力を込めても氷が噴き出してこない。
「俺は昔から馬鹿で自分に取り柄が無いことをわかってたから他人のカッコイイ異能力を見ると、自分のモノになったらいいのになってよく妄想をしてたんだ」
門倉くんが少年のように目を輝かせながら拳を振り上げる。
その拳には冷気が纏っていた。
「
私の異能力が門倉くんに奪われた。
受け入れられない事実を前に思考が停止する。
それでも氷拳は容赦無く私に迫る。
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