第95話 また会う日まで
—1—
屋敷を後にした私たちは、瀕死だったロープとカズを交代で背負いながら行く宛も無く、影の中を突き進んでいた。
種蒔さんは無事だろうか。
私たちはこれからどこに向かえばいいのだろうか。
頼れる人はいない。
最悪またマザーパラダイス以前の野宿生活も覚悟しなくてはならない。
「ウシオ! ロープとカズが」
スイとキララがそれぞれロープとカズを地面に寝かせた。
ウシオがロープとカズの手を握って目を閉じる。
「よく頑張った」
私とスイ、キララとアイラもウシオの背後に立ち、目を閉じた。
もうみんなは帰って来ない。
人を生き返らせる異能力があったとしたら真っ先にみんなを生き返らせるけれど、そんな異能力の存在は現在まで1度も報告されていない。
みんなと過ごした日々が脳裏に浮かんでは消えていく。
それと同時に今後の不安が波のように次々と襲い掛かってきた。
身寄りの無い女子5人でこの社会をどう生き抜いていけばいいのだろう。
当然、お金も持っていない。
「どこか人気の無い場所を探して自給自足をしてやっていこう」
「そうだね。それしかないね。人気の無い場所となると山?」
私はウシオの意見に乗っかった。
最年長である私たちがある程度方向性を定めなくては他の3人が安心できない。
とはいえ、人気の無い場所という条件だけではなかなか難しい。
水源も確保しなくては。
「ごめんなさい。そろそろ異能力の限界だからいったん地上に出てもいい?」
屋敷からここまで『
「ありがとう玲於奈」
「ううん、スイも体は平気?」
「うん、大丈夫」
咲夜の
みんなが地上に出たことを確認してから私が異能力を解除する。
「おっ、本当に出てきたな」
「
「いいや、
地上に出ると、そこには胸の大きな可愛らしい少女? と、スラっとした体型の綺麗な女がいた。
まるで私たちがここから出てくると分かっていたかのような口振りだ。
「あなたたちは?」
ウシオが警戒した様子で2人に尋ねる。
「とある人物に頼まれてお前たちを保護しにきた。お前たちがマザーパラダイスのメンバーで間違いないか?」
スラっとした方の女、環奈が茶封筒を顔の前にチラつかせた。
「マザーの字だ!」
それを見てアイラが反応した。
「その反応は間違いなさそうだな。私は
「
「卒業生……」
卒業生という単語を耳にして種蒔さんと陣内の会話を思い出した。
2人の会話の中にカンナとアユミという名前が度々出てきていたのだ。
恐らくこの2人のことで間違いないだろう。
種蒔さんは自分のことを恨んでいると言っていたが、実際のところはどうなのだろうか。
現在は学院で働いているとも言っていたし、信頼するには少し危険かもしれない。
「マザーに頼まれてお前たちを保護しにきた」
「その封筒の中身を見ても?」
「ああ、問題ない」
ウシオが環奈さんから封筒を受け取る。
中には手紙が入っていた。
『カンナとアユミへ。
お元気ですか? なんて気軽に聞ける立場にないことは重々理解しています。
まずはあなたたちとの約束を破ってしまい、申し訳ありませんでした。
あなたたちの母親になって、ずっと側にいる。
そんな約束さえ守れなかったダメな母親でごめんなさい。
心に深い傷を負ったみんなに寄り添い、幸せとは? 優しさとは? 思いやりとは?
喜怒哀楽の表現の仕方など、日々の生活を通して私自身も学んでいきたいと考えながら過ごしていました。
どうだったかな?
振り返ればみんなには辛い思いばかりさせていたね。全ては私の弱さが招いた結果です。ごめんなさい。私がもっと強ければ守ってあげられたんだけど。
陣内さんから2人は異能力者育成学院で働いていると聞きました。
私も元々は小学校の教員でした。小学校と高校では違うのかもしれないけど、人にものを教える大変さは知っています。
辛いことがあったら2人で助け合ってください。2人が協力すればどんな壁でも乗り越えられると信じています。
あまり長くなっても鬱陶しいだけだと思うので、今回2人に手紙を出すに至った経緯を説明します。
カンナとアユミの2人がマザーパラダイスを卒業してから私は第2期生の子供たちを受け持つことになりました。
年齢も性別もバラバラ。今は上が14歳から下は10歳までの11人です。
子供たちと接していると、あなたたちと過ごした日々を思い出します。
同じ過ちを繰り返してはならない。せめて誰も欠けることなく全員卒業させる。
でも、あるとき自分の中で本当にそれでいいのか? という疑問を持つようになりました。
ここを卒業した後、この子たちに幸せな未来が待っているのか? と。
「2人は今幸せですか?」
このことを聞くのが何よりも怖かった。
ということは、私は後悔しているのだと思う。
2人も覚えていてほしい。後悔は成功体験でしか消すことはできません。
だからという訳ではありませんが、私は戦うことに決めました。
自分なりの責任の取り方とでも言っておきますか。
きっと私は全てを失うと思います。
それでも、家族の未来のためだというのなら全力で立ち向かいます。
私がいなくなった後、きっと子供たちはどこに進んだらいいのか分からなくなると思います。
カンナには「またマザーは勝手なことを」と言われそうですが、2人にお願いがあります。
私の代わりに子供たちを明るい未来に導く手伝いをしてください。心のどこかで気に掛けるだけでもいいです。
いくら特別な訓練を受けてきたとはいえ、あの子たちもまだ子供です。
きっとこれから多くの挫折と自分自身の無力さを感じるはずです。
そのときに頼りになる大人の存在はとても大きなものになるかと思います。
マザーパラダイスという同じ家で育った間柄です。見方によっては家族とも取れるのかな。
最後まで強引でわがままな母親を許してください。
いや、許さなくてもいいので子供たちのことだけはどうかよろしくお願いします。
カンナとアユミの母より』
「マザー……」
手紙を読み終えた私たちは揃って大粒の涙を流していた。
それは種蒔さんがもうこの世にはいないということを理解したからだ。
マザーパラダイスにやって来た頃は優しいけれどどこか裏がありそうな人という印象だったが、それは葛藤している種蒔さんの内側の部分を無意識に感じ取ってしまったからなのかもしれない。
種蒔さんは最後まで私たちのことを考えてくれていた。
それをこの手紙から読み取れた。
「そこがお前たちの新しい家だ。マザーは初めから全部用意していたらしい」
封筒には地図と住所の書かれた紙が入っていた。
今朝種蒔さんが言っていた「自然が豊かで周りに人がいない静かな場所」というイメージにピッタリだった。
「時間もない。そこに行く奴だけ車に乗れ。そうじゃない奴はここに残れ。マザーの最後の願いだから今回は手を貸してやるが、私も保坂もそこまで余裕がなくてな」
「ありがとうございます。全員乗ります」
ウシオを先頭に全員が車に乗り込んだ。
明るい未来に突き進むために。
—2—
そうして私とウシオは15歳までの約1年間、マザーが残してくれた田舎の土地で過ごした。
そして迎える春。
私とウシオは高校に進学することを決めていた。
私は異能力者育成学院へ。
ウシオは
異能力者育成学院は、私たちの家族を奪った天魔咲夜が通っていた高校で、陣内が校長をしている。
天魔までの手掛かりが何か掴めるかもしれない。
陣内に顔を知られているため、入学することはかなり厳しいと思われたが、環奈さんと歩さんが裏で手を回してくれた。
学院で顔を合わせたら他人のフリを、とのことだった。
2人も学院の内部からマザーパラダイスに関する情報を集めようと密かに動いているらしい。
ウシオは、陣内がプロジェクトに関わっていると口にしていた聖帝虹学園に進学して独自に調査するみたいだ。
学院が違えば情報交換する機会も減ってしまうがそれは仕方がない。
幸いなことに文化祭や他校対抗序列戦などの行事で一緒になることがわかっている。
そのときまで私も有力な情報を掴んでおかなくては。
1年後には私の後輩としてスイも入学してくる手筈になっている。
殺人ギルド血影の牙は絶対に天魔を、陣内を逃がさない。
【◯殺人ギルド血影】END。
NEXT→【○SS入学式「暗空玲於奈」視点】
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