第79話 いざ敵のアジトへ
—1—
「はい、これが
「う、うん」
コグマに言われるがままパーカーに腕を通す。
「おーいいじゃん! 玲於奈、黒色似合うねー」
「そう?」
左胸の辺りに赤い三日月が描かれたシンプルなデザイン。
私以外のみんなも着替え終えたようで、その中でも特にウシオのパーカー姿が群を抜いて似合っていた。
「このパーカーはあたしたちが仲間である証。戦闘中に敵味方が入り乱れることもあるから見分けがつきやすくするって意味もあるね。まあ、間違えようがないけどさ」
確かに大人の中に子供が入り込んだとしても背丈で区別がつく。
それ以前に寝食を共にしている仲間だ。コグマの言うように間違えようがない。
「玲於奈、異能力を使った戦闘経験はある?」
「いえ、ないです」
目的地が近づき、ウシオが確認をとってきた。
戦闘経験と呼べるかどうかわからないけど、公園で酔っ払いに襲われたときに異能力を使って自己防衛したことはある。
ただ、ウシオが言う戦闘経験には当てはまらないと判断して首を横に振った。
私と同じくスイも今回が初めての仕事だから戦闘経験はないはず。
というか、戦闘経験があるか聞いてきたということはやはり堀宮大輔やその仲間と正面からやり合うみたいだ。
「そう。まあそれが普通よね」
そうだ。
普通に生きていれば9歳という年齢で戦闘経験がある方が珍しい。
「ウシオ、今回の作戦は?」
視界に堀宮がいるとされているビルが見えてきたところでキノコが聞いた。
「いつも通り。キノコが敵の動きを封じて私とコグマで一気に攻め落とす。敵が何人いるのかはその場に行かないとわからないから各自柔軟に対応すること。スイと玲於奈は後方で見ているだけでいい。危ないと思ったら全力で逃げて」
『「了解」』
「りょ、了解」
コグマとキノコに遅れてスイが返事をした。
私はスイの声に合わせて頷いた。
「じゃあ、フードを被って」
ウシオの指示で全員がフードを深く被った。
防犯カメラ対策だろう。
それに相手からこちらの顔が見えないというのは混乱させる効果がある。
「突撃!」
ウシオの合図で私たちはビルの中に潜入した。
—2—
どこにでもあるような6階建てのビル。
ビルの入り口にあった郵便受けから情報を入手する。
どうやら1階から2階が学習塾になっていて3階から6階が堀宮が運営する会社の事務所として貸し出されているらしい。
となると、目的地は2階よりも上の階ということになる。
「エ、エレベーターは?」
「閉じ込められる可能性があるから使わない」
エントランスを抜けた突き当たりにエレベーターがあったが、ウシオはエレベーターに目もくれず、階段を目指した。
スイはエレベーターに乗りたさそうな表情をしていたが、リーダーの判断は絶対だ。
諦めて大人しく後ろからついてきた。
学習塾は学校が終わってから始まるため、正午を回ったばかりの現在、1階、2階共に人の気配はなかった。
誰にも出くわさないのはこちらにとっては好都合。
階段を一気に駆け上がり、3階の事務所の扉の前まで足を進める。
「私が手で合図するからついてきてね」
コグマが小声でそう言い、ドアノブに手を掛ける。
そして、3、2、1、と指を折っていく。
0。
「なんだお前ら!」
扉を開けた瞬間、タバコを吸っていた男に出くわした。
すかさずコグマが背負っていたリュックを男に向かって投げつける。
「くそっ、おい! 侵入者だ!!」
男が大声で私たちの存在を知らせる。
すると、奥の部屋から物音が聞こえてきた。
「キノコ!」
「ああ、わかってる」
キノコが素早くコグマの前に足を進め、左右に腕を広げた。
「痺れろ。
キノコの体からオレンジ色の粉が吹き出し、たちまち室内に胞子が漂った。
「
玄関に様子を見にきた男が胞子を吸い込む。その途端ばたりと倒れ込んだ。
体に力が入らないのか立ち上がることができないみたいだ。
同じくタバコを吸っていた男——孝治も吸い殻を床に落として壁に寄りかかるように倒れ込んだ。
「お前たち、何者だ?」
駆けつけた男が地面に這いつくばりながら鋭い視線を向けてくる。
「堀宮大輔はどこだ?」
男の問いかけを無視してウシオが堀宮の居場所を問う。
「クソガキが。堀宮さんに何の用だ?」
「2回も言わせるな。堀宮はどこにいる?」
「!?」
ウシオが男の腕を踏みつけた。
苦痛に顔を歪ませる男。
「3階に侵入者だ! 敵は5人! ガキが5人だ!! 今すぐ応援を回してくれ!」
孝治が痺れる手でスマホを操作し、誰かと連絡を取りだした。
「このっ!」
すかさずコグマが孝治からスマホを取り上げて地面に叩きつける。
「コグマ、敵の仲間が駆けつける前にバラけるぞ。キノコとコグマは4階に、私とスイと玲於奈は5階に向かう」
「わかった! この余計なことしやがって」
コグマが男の顔面に1発ずつ拳を振るうとキノコと一緒に4階へ向かった。
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