第61話 奥の手

―1—


影吸収シャドー・アブソーブ


 暗空と分身暗空が両手に影を集め、漆黒の刀・月影を作り出した。


「フッ」


 暗空は短く息を吐くと、刀を斜めに下ろしたままガインに向かって走り出した。

 オレも暗空の邪魔にならないようにその後に続く。


 これまでガインに対して千炎寺が緋炎で、氷堂が氷剣で挑んでいるがどちらもダメージを与えることはできていない。

 ガインの体が大きいため攻撃を当てること自体は難しくないのだが、どうしても強固な鱗によって阻まれてしまう。


 暗空の攻撃技はソロ序列戦の決勝で見ているから大体把握している。

 剣撃から砲撃系、さらには拘束系の技まである。

 暗空は圧倒的強者を前にどう攻撃を組み立てていくのか。


 ガインの凶暴さは嫌というほど思い知らされた。

 場合によっては、オレも奥の手を使わざるを得ないだろう。


「月影一閃・双撃」


 暗空がガインの足先に刀を振り下ろす。

 しかし、案の定鱗によって弾かれてしまう。

 それでも暗空は諦めない。


 ガインが繰り出す攻撃を掻い潜りながら、自身の影と入れ替わりで刀を振るい続ける。

 オレも身体強化した拳を叩きこむ。


「GIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!」


 体に纏わりつくオレと暗空に苛立っているのかガインが咆哮を上げた。

 咄嗟にオレと暗空は耳を塞ぐ。


 崩れかかっていた校舎の一部が音を立てて崩れていく。

 このままでは、校舎が完全に崩れ落ちるのも時間の問題だろう。


「不味い! 暗空下がるぞ!」


 ガインが両足に力を入れた瞬間を見逃さなかったオレは、暗空の手を引いて後退することに。


 次の瞬間、ガインの背中に生えている巨大の翼が左右に広がった。

 太陽の光を遮るくらい大きな翼が飛び立とうとして強風を巻き起こす。


 オレも暗空も飛ばされまいと踏ん張っていたが、あまりの強風に地面から足が離れてしまう。


「うぐっ」


 校舎にぶつかり、態勢を立て直しながら顔を上げる。

 この光景をどう言葉で表現したらいいのかがわからない。


「まったく、でたらめね」


 オレの隣で顔を上げていた暗空がそんな感想を漏らす。

 オレたちは、何を相手にしているのだろうか。


 空に飛び立ったガインが学院ごと焼き去るつもりなのか再び口を開いた。

 口の奥から炎が沸き上がっていく。


影吸収シャドー・アブソーブ


 暗空がガインの影を吸収し、両手を空へと向ける。

 暗空の分身も狙いをガインに定める。


手影砲撃シャドー・カノン・双射!」


 具現化したフェニックスをも撃ち落とした一撃。

 高出力の影の砲撃がガインに襲い掛かる。


龍の火炎砲ドラゴンキャノン


 迎え撃つのは災害級の破壊力を持つ火炎砲。

 暗空と分身暗空が繰り出した『手影砲撃シャドー・カノン』が螺旋回転を描きながら2つが1つにまとまった。


 1つになったことで威力を増したと思われたが、火炎砲の破壊力には敵わない。

 炎と影、2つの砲撃がぶつかった刹那、衝撃が波のように伝わってきた。

 徐々に押されていく暗空の一撃。


「ッ!」


 暗空は歯を食いしばって残りの力を注ぎこんでいるが、少しずつ火炎砲が地上に近づいてきている。


 オレたちの背後には、千炎寺や氷堂、明智と千代田がいる。

 何があってもこの攻撃を通すわけにはいかない。


「神楽坂くん?」


 オレは暗空の前まで足を進め、両手を天に掲げた。


影吸収シャドー・アブソーブ


 周囲の影を全てオレの両手に集める。全神経を集中させろ。1つも影を残すな。

 暗空が驚いた表情を浮かべている。

 無理もない。自身の異能力を他人が使っているのだ。


「もうダメ」


 とうとう限界がきたのか暗空の分身が消滅し、火炎砲が手影砲撃シャドー・カノンを飲み込んだ。


 オレの異能力はコピー能力。

 オレ自身の体で受けた異能力をコピーできるというもの。


 そう、異能力そのものをコピーするのだ。

 何も技までコピーする必要は無い。


 オレは朝や放課後の時間を使ってコピーした異能力の新技を開発していた。

 技は使用者が脳内で描くイメージによって再現度や威力が変わる。


 これを使うのは初めてだが、不思議と失敗するイメージが浮かばない。

 この技は成功する。


漆黒の影が覆う世界シャドー・ワールド反射リフレクト


 巨大な影の盾を生成し、そこから龍の火炎砲ドラゴンキャノンが発射される。

 これはオレとガインが1対1で戦ったときに予め取り込んでいたものだ。

 オレが生み出した新技で威力を殺さずに放出したのだ。跳ね返したとも言える。


 火炎砲と火炎砲が空中で衝突する。

 同じ技だ。威力はほぼ互角。

 2つの火炎砲は火花を撒き散らせながら相殺された。


「神楽坂くん、あなたって人は」


 暗空が膝をついたままオレの顔を見上げる。いつの間に怪我をしたのか、頬から血が流れている。

 すぐに視線を前に戻す。油断はできない。


 オレは攻撃を防いで見せただけ。

 同じことが何回も連続でできる訳では無い。


「GIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ガインが体を真っすぐに伸ばして急降下してきた。

 捨て身の攻撃。まるでミサイルだ。


龍の体当たりドラゴンダイブ


 体は固い鱗で覆われている。

 火炎砲よりよっぽど厄介と言っていい。


「暗空、オレの後ろに隠れててくれ。あれを完全に防げるかはわからない」


「無理よ。あんなのどうやって防ぐって言うの?」


「時間が無い。オレを信じろ」


 オレの普段見せない気迫に押されたのか暗空が素直にオレの背後に体を隠した。それでいい。


 この攻撃はオレの奥の手だ。

 あまりに強力すぎる力が故、今のオレの体では耐えられるかどうかがわからない。

 だが、やるしかない。


 人間は強敵を前にして初めて進化する。

 今が進化するときだ。


 この世には極稀に複数の異能力を持って生まれてくる者がいる。

 ソロ序列戦では、千炎寺が自身が多重能力者であることを明かした。


 オレもその1人だ。


 オレのもう1つの異能力。

 それは『』。

 この異能力は、コピーした異能力や技を1つに合わせることができるというもの。

 当然、技の威力も通常と比べて段違いに跳ね上がる。


 重心を落として拳を後ろに引く。

 さっきはイメージがズレていたから本来の力が発揮されなかった。


 修正するんだ。インパクトの瞬間に最大の力が伝わるように意識しろ。


「食らいやがれッ!!!」


 向かって来るガインの頭目掛けて拳を振り抜く。


 全力正拳突きフルパワーナックル×氷拳打破フリーズンブレイク全力氷拳突きフルフリーズンナックル


 橋場先輩の異能力と氷堂の異能力を掛け合わせた融合技。

 氷を纏ったオレの拳がガインの頭を捉える。

 物凄い衝撃。本来だったら瞬殺されていてもおかしくはない。


 しかし、オレの融合技はガインをしっかりと受け止めていた。

 拳からガインの頭に冷気を伝える。

 すると、ガインの頭が凍り始めた。


「眠れ、怪物!」


 オレの口から白い冷気が漏れる。

 これだけオレたちのことを苦しめたんだ。

 倒れてもらわなくては困る。


「凄い……」


 背後から暗空の声が聞こえてきた。

 それと同時に大人しくなったガインがオレの前にうつ伏せに倒れた。


 ドクンッ。


「うっ」


 融合技の反動で体の力が一気に抜けた。酷い疲労感に襲われる。


「神楽坂くん、大丈夫ですか?」


「ああ、心配ない。少し力が抜けただけだ」


 右膝をついたまま暗空にそう返す。

 なんとかガインの攻撃を防ぎ切った。


 馬場会長が未来視で視たと言っていた校舎もまだ建て直せる範囲だ。

 後は生徒会のメンバーの到着を待って――


 暗空の顔色が目に見えて悪くなった。

 視線はオレの遥か上を見ている。


 冗談だろ。嘘だと言ってくれ。

 背後から聞こえてくる息遣い。

 これは紛れもなくガインのものだ。


龍の鉤爪ドラゴンクロ―!」


 立ち上がったガインがオレと暗空目掛けて強靭な爪を振り下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る