第59話 火を吐くドラゴン襲来
―1—
反異能力者ギルドの襲撃まで後5日となった6月4日木曜日。
食堂で
オレは明智と千代田に断りを入れてから生徒会室に向かう。
「突然呼び出して悪かったな」
生徒会室の会長席に座っていた
生徒会のメンバーが全員揃うのは、オレと暗空が生徒会に加入したあの日以来だ。
生徒会の仕事をすると言っても必ずしも生徒会室で行わなくてはならないという規則はない。
現に馬場会長と
天童先輩は主に校内の見回りを。
橋場先輩は各部活に振り分けられた金銭が正しく運用されているかの確認や設備の維持費の支払いなど、ほとんど外に出ていた。
オレと暗空はまだ役職に就いていないため、日替わりで先輩たちのサポートに回っていた。
生徒会の仕事が片付けば反異能力者ギルドの襲撃に備えて訓練ルーム等を利用して自主練習を行った。
そんなわけで約1週間振りに顔を合わせたことになる。
「今回集まってもらったのは他でもない。反異能力者ギルドの襲撃についてだ。恐らく今回の件は学院創設以来最大の危機と言っても過言ではないだろう」
馬場会長が机の上で手を組んだ。
「そこで、俺と滝壺とで教師陣に協力を要請した。俺の未来視の異能力のことは広く知られているからな。話を聞いてくれた校長先生からも納得してもらうことができた」
学院や生徒を守るのが教師の仕事でもある。
生徒会長から直々に助けを求められれば学院側は断れない。
「他にも学院の序列7位以内の生徒や特待生で入学した生徒についても同じく協力を要請した。すでに全員の承諾を得ている。戦力が増えるに越したことはないからな」
特待生の生徒ということは、
2人は1学年の中でもかなりの実力者だ。味方になるのならかなり心強い。
「ここからは敵の詳細な情報について話す。必要に応じてメモしてくれ」
滝壺先輩がすかさずプロジェクターを操作し、壁にイラストを映し出した。
「このイラストは会長が夢で見たイメージを参考に私が描かせて頂きました」
滝壺先輩が描いたイラストはお世辞抜きで上手いと言える。
人から聞いた情報だけでこれだけ忠実に再現するというのはなかなかできたことではない。
「俺が見た敵の数は全部で4人。まずこの白髪青眼の男だが、仲間からはシューターと呼ばれていた。恐らくこいつが敵のリーダーだ」
細身の体型であることからパワー系で押してくるタイプではなさそうだ。
「2人目はいかにも魔法使いと言わんばかりのこの少女だ」
灰色の長髪の少女は、魔女特有の黒い三角帽子を被り、手には杖を持っている。
杖の先には宝石だろうか、キラキラと輝きを放つ赤い球体が付いている。首元には青のリボン、靴は黒のブーツを履いている。
服装を上から下まで一通り見た後で、容姿に目を向ける。
幼い顔つきが創作上に登場する魔法少女を思い浮かばさせる。目はオッドアイで、右が青、左が黄色といった具合だ。
馬場会長も言っていた通り、誰が見ても魔法使いとわかる装いだ。
「彼女はウィズと呼ばれていた。次は刀を持った目つきの鋭い少女だ。俺の記憶違いでなければ彼女の名前はハバネロだ」
黒髪短髪に黒のショートスカート。赤いベルトをしているのだが、それが一段と映えている。
また、動きやすさを重視しているのか露出が多い。
そして、手にしている刀には、見たことの無い黒い模様が入っている。
滝壺先輩のイラストを見ているだけでも彼女が相当な腕の持ち主ということがわかる。
「最後だ」
イラストが切り替わった瞬間、生徒会室にいる面々が息を呑んだ。
ドラゴン。
黒の鱗に覆われた巨大なドラゴンが生徒会室の壁に映し出された。ドラゴンの鋭い赤眼がこちらを睨みつけている。
「俺が見た夢では、このドラゴンの一撃が学院を崩壊させるきっかけになった。他のメンバーからはガインと呼ばれていた」
「なるほど。正直なところ学院が滅ぼされたと聞かされて疑問に感じていましたが、このイラストを見て納得しました。これは確かに災害級の相手ですね」
榊原先輩がため息交じりにそう呟く。
多岐に渡る異能力の中には、獣化や変身というものがある。このドラゴンはその中でもかなり上位種に分類されるはずだ。
「さすがにソロは無理ゲーっぽいですね。となると、橋場先輩と
ゲーマーらしく分析してみせる天童先輩。
どうでもいいが榊原先輩のことは名前で呼んでいるみたいだ。
「何を言っている。天童もそこに入ってもらうぞ」
「うげっ、わかりました」
天童先輩が一瞬渋い顔を見せたが、すぐに元の顔に戻して頷いた。
「各マッチアップだが、滝壺と神楽坂が魔法使いのウィズと。暗空が刀使いのハバネロと。俺はリーダーのシューターと戦う。最悪な未来を変えるために今日まであらゆる手を打ってきた。その結果、俺が見た未来とは異なる状況になるかもしれない。その場合は各自臨機応変に対応してくれ」
『「はい!」』
一致団結して敵を討つ。敵の全貌が見えてきたことで生徒会がより強くまとまった。そんな気がした。
馬場会長は未来を変えるために行動してきたと言った。
だが、オレはふとこんなことを思ってしまった。
未来を変えてしまったことで、さらに最悪な未来が待っているのではないか、と。
―2—
6月6日土曜日。
「よしっ、この辺で1回休憩を挟むか。10分後にまた始めよう」
「そうだねっ」
「わ、わかりました」
オレは、明智と千代田と訓練ルームを訪れていた。
朝の9時から特訓が始まり、今は10時30分を過ぎた頃。
軽くアップを済ませてから1対1の模擬戦を1本ずつ行い、その後で2対1の模擬戦を永遠と繰り返していた。もちろんオレが1の方だ。
適度に休憩を入れながら行っていたが、身体強化縛りで頭を使いながらとなるとさすがに体力の消耗も激しい。
それだけ明智と千代田の成長が著しいということでもある。
飲み物を買いに行くと言い訓練ルームを出ると、ちょうど隣の訓練ルームからも人が出てきた。
「あっ」
銀髪蒼眼の少女、
「おう、神楽坂じゃないか」
「千炎寺、どうして2人がここにいるんだ?」
この組み合わせは学院の中でもあまり見たことがない。
「どうしてって、ここから出てきたってことは神楽坂も特訓してたんじゃないのか?」
「生徒会に入ったみたいだし、話くらいは聞いているでしょ。作戦に加わった身として足を引っ張るわけにはいかないから千炎寺くんと技を磨いていたの」
腕を組んで胸を張る氷堂。
「心配するな。誘ったのは俺の方だ」
千炎寺がオレの肩に腕を回した。一体何を勘違いしているのやら。
「神楽坂くんは1人?」
「いや、明智と千代田と一緒だ。怪我明けだから感覚を取り戻すために付き合ってもらってたんだ」
「そう、随分仲が良いのね」
氷堂から僅かに冷気が漏れている。もしかして怒っているのか?
でも、だとしたら理由がわからない。
「おい、なんか揺れてないか?」
千炎寺がそう言いながら廊下の窓を開ける。
「確かに言われてみれば揺れてるわね」
「地震か?」
しかし、次の瞬間、建物が大きく揺れた。地震のそれではない。
だとすると、考えられるのは数パターンしかない。その中でも1番最悪なものが頭をよぎる。
「神楽坂くん! 今揺れたよねっ!」
揺れを感知した明智と千代田が訓練ルームから出てきた。
「お、おい、話と違うじゃねーか。襲撃は3日後のはずだろ」
千炎寺が窓の外を「見てみろ!」と指差す。
オレと氷堂も窓から顔を出した。
「GIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!」
校舎に向かって火を吐き出した黒いドラゴンが、自身の存在をアピールするべく咆哮を上げる。
その咆哮1つで校舎の窓ガラスが全て割れてしまった。
想像を遥かに超えるスケール。
校舎と同等。いや、校舎よりもやや大きいくらいだ。
あんな相手にどうやって立ち向かえばいいんだ?
オレでさえそう思ってしまう。
「土曜日だから援軍が来るまで時間がかかりそうだな」
「ああ」
少なくても先輩たちが寮から学院に向かうだけの時間を稼がなくてはならない。
「俺たちであの化け物をどうにかするしかないな」
千炎寺が物体生成の異能力を使い、緋色の刀・緋鉄を作り出す。
刀の柄を掴み、先端をドラゴンに向ける。
「何があっても援軍が来るまで倒れる訳にはいかないわね」
氷堂の両手から冷気が噴き出す。
「連携が鍵になりそうだな」
オレも2人に続いて身体強化の異能力を発動させる。それと同時に双眸が金色に変化する。
先程までとは違う。初めからギアを1段階上げていく。
本気で挑まなくては死者が出る。敵は存在自体が災害級だ。
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