第31話 やるときは徹底的に
―1—
試合が始まるまで5分を切った。
オレは、
ドームの外はパラパラと小雨が降っている。
「
いや、それでは時間がかかりすぎるか。口に出してすぐに頭を振る。
第3者による妨害という線が濃厚になった今、オレは捜索するポイントをなかなか絞り切れずにいた。
範囲は学院が所有する敷地全て。
学校、寮、ショッピングモールだけでもかなりの広さになる。とても5分以内に探し切れる範囲ではない。
それに試合へ間に合わせるとなると、今から2分以内に千代田を見つけ出し、1分で事を片付け、2分でドームまで戻らなくてはならない。
ある程度目星をつけてからでないと、とてもじゃないが間に合わない。
ソロ序列戦では、試合開始時間に選手が姿を見せない場合は棄権扱いになる。つまり、不戦勝で
せっかくここまで勝ち上がってきたのにこんな形で終わってほしくはない。
「くそっ、考えろ」
とはいえ、ドームの前で思考していても何も進展しない。
とりあえず何か当てがあるというわけじゃないが、学校がある方向へ足を進めるか。
力の限り地面を蹴る。
雨が体に当たり、次第に頭が冷えていく。
「うっ」
ふと、この学院にやって来てからの出来事が走馬灯のように頭の中に浮かび上がってきた。
入学式当日、バスの中での
公園で行われた下剋上システムによるバトル。
オレは序列24位の
総当たり戦、特待生の
氷堂の必殺技、
そういえば、
このメンバーとは、なぜか大会前にオレの家でテスト勉強をしたな。今思えば不思議なメンバーだ。
それから、数日間に渡って誰かに後をつけられたこともあった。
下校中、オレの頭上に花瓶が降ってきたときは学院でもちょっとした騒ぎになった。
そして、ソロ序列戦が幕を開け、オレは初戦で
暗空の強さはこれまで戦ってきた相手の中でも別次元のものだった。
最後につい最近の出来事が頭に浮かんだ。
準々決勝の前日、1年生の寮で
何やら浮谷の部屋でオレの話をしていたらしいが……。
「そういうことか」
走りながら冷静に頭の中を整理したおかげで答えが見えた。
オレの記憶の
犯人はあいつだ。
そして、恐らくオレを誘い出すために千代田に対して何らかの妨害行為を働いているということも確信に変わった。
「ふざけやがって」
オレは異能力を解放させ、最短距離で目的地まで走った。
—2—
「来たな。
寮の近くの公園。
「やっぱりお前だったか
「ふっ、初めからわかっていたような口振りだが、それにしては随分と遅かったじゃねーか」
土浦は、手に持っていた砂を地面に撒き捨て、ゆっくりと近づいてきた。
「薄っすらとはわかっていたが、ついさっき確信に変わったんだ。土浦、昇降口で偶然を装ってオレと接触したのも、浮谷にオレの後をつけさせたのも、1年生の寮に来ていたのも、全部この日のための準備だったのか?」
オレは、今日に至るまでの土浦と浮谷の行動を振り返り、疑問をぶつけた。
「なるほど。浮谷から神楽坂の名前を聞いたときは正直半信半疑だったんだが、どうやら頭はキレるようだな」
土浦が足を止め、オレの顔を睨みつける。
「全部お前が悪いんだ。下剋上システムの最中に邪魔さえしなけりゃな」
「そもそも元を辿れば千代田たちにいちゃもんを吹っ掛けたのはお前の方だろ。それで、千代田はどこだ」
「まあそう焦るな。心配しなくても眼鏡はここにいる」
土浦が指を鳴らすと、土浦の背後に3メートルほどの土柱が形成された。
「神楽坂くん!!」
土柱に体を拘束された千代田がオレの姿を見て泣き叫ぶ。
額からは血が流れ、体中擦り傷だらけだ。トレードマークの眼鏡のレンズにもヒビが入り、長時間攻撃を受けていたのか体もぐったりとしている。
「千代田!」
「す、すいません、ドームに向かう途中に捕まってしまって。入学式の日、お前を助けた奴の名前を吐けと何度も言われて。でも、私、言いませんでした」
目から溢れる涙が血と雨と混ざり、地面に落ちる。
「おい、誰が喋ることを許可した?」
土浦が腕を振り上げると、拳ほどの大きさの土の塊が宙に浮き、千代田の顔目掛けて飛んでいった。
千代田は体を拘束されているので、回避することができない。
グシャッという鈍い音と共にガックリとうな垂れる千代田。
どうやら気絶してしまったようだ。
「ふざけるな……」
「あ?」
「今すぐ千代田を解放しろ。今日のために千代田がどれだけ練習を積んできたと思っているんだ」
「ふっ、誰が誰に向かって命令してんだカスが。お前も生徒会長から説明は受けたはずだ。この学院は序列主義だ。序列最下位のお前が序列24位の俺に向かって何を言おうと、そこには何の効力も強制力もねぇんだよ。だから――」
土浦が先ほど撒き捨てた砂が複数の鋭い槍へと形を変え、千代田に襲い掛かる。
次の瞬間、千代田の衣服がズタズタに切り刻まれ、白い肌が露わになった。
「こんなことをしても俺が罪に問われることは無い」
地面に落ちた千代田の衣服に唾を吐きかけて汚い笑い声を上げる土浦。
このとき、オレの中の何かが切れた。
「お前が言うところの序列主義っていうのは、強者こそが正義の世界。例えるなら強者は王様だな。その王様が間違った行動を取っても弱者には文句を言う権利は一切無く、ただただ強い奴に従うってことか」
「まあ、そういうことだ。よくわかってるじゃねーか。力の無い奴は黙って指咥えて見てりゃいいんだよ」
「そうか。その言葉忘れるなよ」
土浦の考えはよくわかった。
これ以上話していてもオレとわかり合えることはないし、何より時間の無駄だ。
強者こそが全てだと言うのなら文字通り実力で示すほかない。
こういう相手に手を抜くのは逆効果だからな。
やるときは徹底的に潰さなくてはならない。
圧倒的実力差を見せて、2度とオレの仲間に手を出してはならないと思わせる必要がある。
「
「へっ、いいのか? そんなことしてたら眼鏡ちゃんの試合は間に合わないぞ。まあ、どっちにせよ後1分じゃ間に合わねぇけどな」
「間に合うさ。お前みたいな相手を倒すのに30秒も必要ない。ほら、無駄口叩いてないでさっさと始めるぞ」
「始めるって言っても下剋上システムをするには審判が必要だろうが」
「そういうことなら俺が審判を務めよう」
いつから話を聞いていたのか、公園の入り口に立っていた生徒会長の
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