第10話 氷拳打破《フリーズンブレイク》
—1—
「可哀想だなあいつ」
「よりにもよって氷の女王が相手とはな」
「てか、あれ誰だ?」
「さっきペアを作れなくて
「まあ、あいつには悪いが俺たちは安全な場所から見物させてもらうとするか」
「フッ、どうせ一瞬だろ。余りものに
浮谷とその取り巻きが、総当たり戦1戦目で氷堂が見せた広範囲攻撃の射程外からガヤを入れてくる。
オレはそれを右から左に聞き流した。氷堂も表情に変化が無い。
浮谷は1戦目と同様身内とペアを組み、ローテーションしているみたいだが、分かり切っている相手と戦ってもそれほど大きな成長は見込めない。
成長するには自分と同等か、それ以上の相手と戦わなくてはならない。人とは極限の状態に直面してこそ進化するものだ。
「不思議ね」
「何がだ?」
いつバトルが始まってもおかしくはない。そんなタイミングで氷堂が話し掛けてきた。
「バトルの直前、こうやって私と向かい合う人は皆どこか恐怖心のようなものを持っていたわ。だけどあなたからはそういった雰囲気がまるで伝わってこない」
「そうだな。それはどうやったら氷堂を倒せるか考えることに必死で、恐怖心なんて感じる暇も無いからだろうな」
「変な人」
氷堂がグワッと目を見開くと、銀髪が重力に逆らってふわりと浮き上がった。
『「バトルスタート」』
「
氷堂の前に氷の花びらがいくつも咲き誇った。その中でも一際大きな花びらから強烈な冷気が吹き出す。
一瞬にして厚い氷が地面に広がり、再びグラウンドの半分が氷の世界と化した。
「やっぱり逃れることは不可能か」
その攻撃をもろに受けていたのが氷堂の正面に立つオレだ。下半身が氷漬けにされ、身動きが取れなくなっていた。
幸いなことに上半身はまだ動くが、動いたからといってどうすることもできない。
氷堂は自身の言葉通り、たった一撃でオレのことを戦闘不能にして見せたのだ。
さすがは特待生。相手を確実に拘束する技の正確性。威力。スピード。どれをとっても一級品だ。
ごく平凡の一般生徒相手では歯が立たないのも頷ける。
「随分と大口を叩いていたからどんなものかと期待していたのだけど、ガッカリね」
氷堂が地面に咲く巨大な氷の花びらに向かって手を伸ばす。
「氷剣ッ!」
すると、花びらが剣へと姿を変えた。
「降参しなさい。あなたの負けよ」
手にした氷剣の剣先をオレに向け、勝ち誇ったように佇む。
「氷堂、オレが負けだと誰が決めた? まだバトルは終わってないぞ」
審判をしている鞘師先生からもバトル終了の合図は出ていない。
しかし、この状況では誰が見てもこの勝負に負けるのはオレだ。氷漬けにされ、剣を向けられているのだからそう思われても無理はない。
氷堂の実力を直に感じ、ごく普通の一般生徒では勝ち目がないと納得した。
そう、ごく普通の一般生徒では。
「氷を溶かす異能力でも持ってるって言うの? だとしたら1戦目が終わった後、私の氷を溶かしに来なかったのは不自然よね」
「ああ、溶かす必要が無いからな」
「何を言って……」
オレは拳を握り締め、足元の氷を思いっ切り殴った。
氷が砕け飛び、自由になる。
「氷から逃れたとしても斬るだけ!」
剣を振るおうとした氷堂目掛けて、宙に飛び散った氷の破片を投げつける。
至近距離で回避不可能。
氷堂は氷の塊を切り払うと、すぐにオレを斬るべく態勢を整えようとした。
だが遅い。
オレは氷の地面を蹴り、一気に加速すると氷堂の懐まで入り込んだ。
氷堂の驚いた表情が視界に入る。
「終わりだ」
がら空きになった腹部へ拳を振り上げる。
「ッ!」
手に伝わる確かな手応え。
しかし、それは氷堂の体を捉えたものではなかった。冷たい。強烈な冷気が拳から体の芯へと伝わってくる。
「氷の盾か」
オレの拳よりやや大きいサイズの氷の盾が氷堂の腹の前に形成されていた。
個人差はあるが、盾なんかの防御技は大きいものより小さく的の絞ったものの方が防御力が上がる傾向にある。
あれだけ広範囲の技が使える氷堂だ。ピンポイントで防御技を出したらそうそう壊されることはない。
盾から衝撃が伝わってきたのか態勢が崩れた氷堂だったが、その目は勝ちを諦めていない。
(想像以上だ。もう十分だな)
氷堂の蒼眼が光る。
「
氷を纏った彼女の拳がオレを撃ち抜いた。
—2—
「神楽坂くん、大丈夫?」
氷堂の攻撃を食らい、大の字に転がっていたオレを
駆け寄って来た
「ありがとう、もう大丈夫だ」
総当たり戦2回戦はオレの完敗だった。
しかしながら、遠巻きにバトルを見ていた生徒からは、特待生相手に意外といい勝負を繰り広げた奴ということで、ひそひそと声が聞こえてきた。
オレとしたことが変に注目を集めてしまったようだ。
「神楽坂くん……で合ってたわよね?」
「ああ、それにしても最後の一撃は効いたぞ」
明智の手を借りて立ち上がり、氷堂と視線を合わせる。
氷堂は何か言いたげにしていたが、この場で言っていいものなのかどうか迷っているといった様子だ。
「どうした? 勝負は氷堂の勝ちだ。良いバトルだった」
「何がいいバトルよ。あなたは——」
「集まれー。今日の授業はこれで終わりだ」
「氷堂さんたちも早く集まって下さーい」
その声で氷堂の声は打ち消された。
「悪い、何か言ったか?」
「もういいわ」
氷堂が左右に首を振った。
「そうか。早く行った方が良さそうだぞ」
「ええ」
こうして初めての異能力実技の授業は幕を閉じた。
【〇特待生と一般生】END。
NEXT→【〇穏やかな休日を送れるはずもなく】
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