おなおり申して
霜月ふたご
観察記録NO.000
『○月✕日・晴れ』
私は身体が悪いので、入院をしています。
それがいつ治るのかは分かりません。
それでも、お父さんやお母さんやお医者さんが「ここに居なさい」と言うので、言う通りにしない訳にもいかないのです。
私は宛てがわれたこの部屋で、大人しく過ごしておりました。
入院生活はとても楽しいです。
お見舞いは、毎日はありませんが私もそれを寂しくは思いませんでした。
その分、自分の時間が沢山持てるのだと考えれば、お見舞いが来なくとも有意義な時間を過ごすことができるのです。
何ら不都合はありませんが、傍から見ればそうでもないのでしょう。
看護師さんたちは私に同情して「辛いわね」「退屈でしょう」と、憐みの目を向けて慰めの言葉を口にしてきたのでありました。
だから、私はそうした時には決まって、厭味ったらしく言葉を返すようにしています。
「外の世界でイソイソと働かなくてはいけないだなんて、大変ですねぇ!」
私に同情的な看護師さんたちも、これにはムスッとした表情になって病室を出て行くのでした
別に、私は強がりでそう言っている訳ではないのです。
ずっとお絵描きをすることができますし、ずっと本を読むことだってできるのです。それは、とても素晴らしいことではありませんか。
——もしも、これがお家だったらどうでしょう?
私が好きなことをしていても「勉強をしなさい!」って怒鳴られて、叩かれることだってあるでしょう。
学校でだって同様です。何かに夢中になっていたところで「気持ち悪い」「付き合いが悪い」なんて友達からはそっぽを向かれてしまうでしょう。
それでも、この病院にいる限りは誰からもそんなことを言われる心配はないのです。
テレビだって好きなだけ観れますし、寝たい時に眠ったって誰からも何を言われることはないのです。
ここでは誰の目も気にせずに、自分の好きなことを好きなだけやることができるのです。
ですから、この病院生活というのは、私にとって楽しいものでありました。
──ああ。いつまでも、ここでこうして暮らしていたいわ!
そんな風に、私は常日頃から思っていました。
ところが、私のそうした願いは脆くも打ち砕かれていくことになるのです。
もしかしたら私がここに居られるのも、もうそう長くはないかもしれません──。
──誰かが私の体を揺さぶって、私は目を覚ましました。
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