090 最高の特権
「結論から言うと『
フロアカ、それは原作ゲーム『フロンティア・アカデミア』を指すネット上での略称だ。
基本的にはただの略称として扱われるが一部のアンチはそれを態々漢字に変換して『風呂垢』と書き込むこともある。
そんな呼び方をされるフロアカ世界における魔法というのは、ざっくり言うと「願うことでその願望を世界に現実化してもらう任意の奇跡」と言えるだろう。
「そもそも魔法の発動に『願う』以外のアクションは本来いらねぇ。魔力を支払って世界に対して「こうしてくれ」と願うだけで魔法っつーのは発動できる」
「でも願うための意思はその時々のコンディションに強く影響を受ける上に、『何を、どれくらいの規模で、どうするか』などの情報が抜け落ちるせいで暴走する危険性があるから
俺は頭の中にある知識を思い浮かべながら言葉を続けた。
例えば料理を作る上で包丁で食材を切ったり、フライパンで焼いたりなどは誰にでもできることだろう。
しかしそれだけでお店に出せるような料理を万人が作れるかと言えば、そうではない。
もしもそのような料理を食べたいと思うのであれば、自ら長い鍛錬を積むかもしくはそれこそ料理人に頼んで作ってもらうしかないだろう。
この時、
そうすることで対価を約束された料理人は、料理という名の超常的現象を客である魔法使いに提供する……これがこの世界における魔法と呼ばれるものである。
ただし今のは設定集に書かれている理解を促すための例え話。
七篠との会話にある通り、本来やろうと思えば「焼いて」「切って」と告げるだけで料理人はそれを行ってくれる。
しかし当然それだけではどのような料理を作れば良いのかわからない上に、割とどんぶり勘定であることが設定で明かされている
そのため仮に『火が欲しい』と願ったりすると指一本の火から視界全体焼き払う炎まで、そしてそれが普通の炎魔法の時もあればそういうエフェクトの回復魔法を発動させる時もあるのだ。
確かに『火』は発生するがそれがどれだけの規模でどういう効果のものなのかが実際に発生するまでなにもわからない。これを暴走と言わずなんというのか?
「(だから『願う』だけのワンアクションで魔法を引き起こせると問題があるってことで、魔法の神であるトート神が意思を直通させないように世界そのものに結界を貼ってたりしてる……だったか)」
しかしその結界というのも「メニューの中にあるものから注文しないと料理人に伝わらない」という制限を設ける程度のものだ。
イメージとしては回転寿司のチェーン店などで採用されているような電子メニューによる注文方法だろうか?
客と料理人を直接会話させることなく、決まりきったメニューの中から注文して、客側の不確かな要望をシャットアウトする。
そうすることで客の雑な注文によって作られる料理人の適当な創作料理を防ぎ、それが結果的に客自身を守ることに繋がっているのだ。
ちなみに「
自分で作るので
その中でも一番の
「あー、話の流れから察するに。お前の言う『世界介入』ってのはトート神の結界を突破して直接『願う』だけで発動する魔法みたいなもんなのか?」
「他の連中と違って俺らはこの世界がゲームだと知ってるからな。この世界がどういうもんかをハッキリ理解してるからこそ、邪魔な結界に惑わされないで直通で魔法を引き起こせるわけ……だと思う」
「急に自信無くすなよ」
「明確な確証があるわけじゃねーしな、少なくとも俺が持ってる原作知識を与えた連中に同じことが出来たやつは居なかった。持ってないスキルとかは覚えられたんだが……あ、その連中はしっかり処分したから安心してくれ。俺だって自分の優位性を自ら捨てるような真似はしたくないからな!」
笑顔で親指を立ててくる七篠に俺は冷たい視線を向け続ける。
そういう余計な情報や仰々しくてわざとらしいジェスチャーとか加える必要はないからさっさと話を進めてくれ。
「あ、お前今。『でも結局、願うだけじゃ必要情報の欠如で暴走するんじゃないのか?』って思っただろ」
「お前の中ではそうらしいな」
「その疑問も尤もだ。なので俺も願いの長さと魔法の発動の関係性を調べてみた。そこでわかったのは願いで伝わるのはせいぜい「何かをしてくれ」程度で、「あれをこうしてこうやってくれ」みたいな長さの願いは魔力だけ持っていかれて不発に終わるっつーことだ。つまり――」
その言葉を皮切りに何やら小難しい魔法理論を専門用語を交えてどうのこうのと語りだす七篠。そして時折、奴は俺が専門用語を理解しているかどうかを確認してくる。
ゲーム内の設定はまだしもこの世界における魔法理論などまるでわかってない俺の顔を見ると、七篠は何故だか満足そうな笑顔を浮かべて「悪い悪い、ちょっと難しかったな。つまり~」と脇道に逸れて説明を始める。
そのせいで説明がとっちらかるわ脱線するわで内容の把握が難しくなる程度には七篠は説明下手だった。
「要訳すると『世界介入』を使って魔法を発動させるには一単語程度で、かつその内容がある程度明確で世界に勘違いされないようなものを願わなければ魔法として成立しないってことだな」
「10分以上もの講釈が一文でまとまるなら先にそう言えや……ッ!」
ぐぎぎ、授業での一件もあるし重要情報の取りこぼしや何かの経験値が入るかもしれないと聞き続けたが、その殆どが知識でマウントを取るための講釈でしかも何の経験値も入らなかったじゃねぇか。
それでも素振りをせず、目の前の男に襲いかからず、ただ片足立ちでバランス能力を高めるトレーニングに抑えた俺を誰か褒めて欲しい。
これ以上余計な話に話題が逸れるようならいっそのこと……と考えていた俺の睨みつけを察したのかどうか、奴は満足そうに口を開く。
「じゃあその単語は何が良いのかというと、俺らにとっておなじみの単語だ」
「馴染みの単語?」
「ゲームの世界でちょっとした手順さえ踏んでやれば誰でも手軽に強くなれて、その応用性も種類も多いもの」
そう言って七篠はまるで悪戯に成功したかのような、無垢でいて邪悪な笑みを浮かべてその単語を口にした。
「――それが『
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