30

ひとしきり寿司を堪能したところで、琴葉が聞く。


「早瀬さんは何のお仕事をされているんですか?」


毎日のようにminamiへ訪れ何かしら会話をするのに、そういえば仕事の話をしたことはなかった。


「建築士として働いてるよ。」


「建築士さん?お家を作ったり?」


建築士と聞いてもあまりピンとこず、大工とは違うのだろうかと琴葉は疑問に思う。


「まあ、家も作るけど、うちの会社は大きな事業を手掛けたりすることが多いよ。例えば街づくりとか空間デザインなんかも。」


「デザイン…。そういえば綾菜さんが、早瀬さんは仕事人間だって仰ってました。」


先ほどの綾菜との会話を思い出しつつ普段の雄大を省みてみるが、琴葉にはどうもしっくりこない。

毎日のように閉店間際にminamiへ訪れる雄大。

琴葉にとって雄大=仕事人間というワードはどうしても結び付かなかった。

だが、雄大はそれを肯定する。


「そうだね、仕事ばかりしてるよ。でも最近は琴葉のおかげで規則正しい生活がおくれてる。」


「私のおかげ?」


パンを売ること以外何かしたかしらと琴葉は首を傾げるが、雄大は殊更熱っぽい視線で琴葉を見つめた。


「琴葉に会いたくて、仕事を早く終わらせてる。で、深夜まで働いていたのをやめて、その分朝早い時間に変えたんだ。」


「会いたいだなんて…。」


雄大の熱っぽい視線が急に恥ずかしくなって、琴葉は思わず目を伏せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る