第七十四回 奥の細道は、温泉への道程。


 ――歩く。奥へ奥へと。



 このエピソードのタイトルにもあるような、か細い道。……ごめんなさい。理科の次に歴史が苦手なものだから、気の利いた文面が綴れずに、こんな駄文になってしまって。


 でも、気を取り直して、

 中学女子ならよくある横並び歩行。――を試みるが、やはり三人縦にしか並べない。すれ違う人も現れない静かな時間、まったりと流れゆく。


 誠!


 と一文字、達筆なTシャツにソフトな半ズボンの僕。可奈かなは現在の季節にあったワンピース。千佳ちかはブラウスとジーンズのスカート。それぞれにリュック……と、まあ、そんなスタイル。――それが今、背負っていたリュックを手に持っている。



 濡れるから。


 それが理由。僕たちがさっきまでしていたことを考えたら、きっと、

 わかるはず。その思いを込め、


「可奈、僕たち水着のままなんだけど、大丈夫なの?」

 と、いう姿。


 ……それでも、どれくらい歩いたのだろう? もう水着は乾いたように思えた。靴は履いてきた。リュック背負ったら楽だけど、何か変。人とすれ違ったら、


「恥ずかしいの? 梨花りか、そんなに赤くならなくても大丈夫、大丈夫」


「でも、僕たち温泉に向かってるんだよね?」


 ……奥の細道、その果てには? 芭蕉ばしょうさんは、どのような心境だったのか? 水戸黄門みとこうもんのお話も関係していると、パパが言っていたような。ああ、……右から左へ。


「ここにはシャトウなんかないよ。ホテルにあるような浴場を想像してた? サウナみたいな。あくまで大自然の中よ、露天よ、露天」――そう、可奈の声がこだまする。



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