第五十五回 それは色彩、僕の初舞台。


 ――この回をもって、エッセイも五十五色になった。Mさんとタイ記録だ。


 Mさんこと瑞希みずき先生、平田ひらた瑞希さん。僕の、僕の憧れの人。あなたの包容力あるナレーションは、アヒルの僕を、優雅な白鳥へと変えてくれる。昨日まで広かったはずの体育館の空間が、密集する観客で狭くなっている。その飲まれそうな重圧プレッシャーをも包み込み、ナチュラルな光のスポット、ミュージカルに躍動する舞いに演技。


 場面効果、大道具の出し入れや暗転や、ナチュラルな光源以外の照明に休まず動いている大塚おおつか君や、大悟だいご君、小林こばやしさん……。


 僕は、人の名前を覚えるほど、深く関わらなかった。


 そんな僕だけど、僕のことを『仲間』と呼んでくれて、励ましてくれて……この十五人のメンバーの名前は、自信をもってしっかりと、ハッキリ言える。覚えている!


 みんなが、僕のこと見てくれる。

 観客も一体となって! ウルッとくる。


梨花りか、泣くのは終わってから」


「あっ、うん」――可奈かなの耳打ち、僕は囁く。その先は――白紙? 空白の脚本だ。


 マリさんは頷く。何かの合図? 響く効果音から暗転。


 アドリブ!


 スポットライト、僕が照らされもう一人……そう! もう一人のボクッ娘。


 千佳ちか! 星野ほしの千佳だ。


 僕の、僕の遠い従妹いとこ。最近わかった千佳の誕生日は七月、それも六日。この『りかのじかん』が開始した日だ。役は……役はね、罪を擦り付けた上に二か月もの間、僕を少年院に入れた真犯人。星野善一ぜんいちさんが傍らにいた。もちろん刑事役だ。


 ……そこは、瑞希先生が用意したアドリブ。


 ご想像ください! 従は付くけど僕らは姉妹。その事実がわかり、憎しみをも包み込むような愛。……優しいシナリオ、僕たち二人は演技を超え、感動の涙を流しました。


 ――これをもって『りかのじかん』は、『続行決定!』と、正式に決まりました。



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