第三十三回 ……で、何をしたの?


 ――と、僕が訊きたい。その一言に尽きるのだ。



 夏なのに鳥肌止まぬ寒か鉄筋コンクリートのグレーの壁、それとは不似合いな真っ白な頭の中……時間を経て徐々に、橙なイメージが沸き上がり、熱と、ハートには磁力のような『勝機の方程式』が、数式を率いて込み上げてきた。



 ――負けるなよ、と、囁いている。


 現場は『海里マリン』という名の喫茶店。七十年代の趣を感ずる学生街の喫茶店だ。設立は二〇一三年だけど……刑事さんは言う。このお店は『違法な行為をしている』と。


 だったら何故、


 なぜ僕に質問をする? 海里に来店したのは二度目。たった二回。いずれも演劇部関係だったのに……でもでも、これは? 僕がカクヨムで『りかのじかん』を開幕した同時期に、茶色の普通乗用車が張り込み見張る。下校の最寄りの駅前で必ず同じ時間。喫茶『海里』まで追いかけてきた挙句、ピンクの自転車を置き去りに、声かけられて千里せんり府警まで同行。僕の同意を求めながらも、半ば強制的だった。さっさと帰りたかったのに、早く終わらせると言いながらも二時間余り、カタカタとNPCノートパソコンのキーボード弾く音。作られる調書。「捜査に協力してくれ」と重ね重ね、繰り返される言葉。そこだけは優しかった。


 沸々と、

 橙のイメージは燃ゆるハート。刑事さんを睨む。


 パパにもママにも、瑞希みずき先生や……可奈かな

 内緒にしたかったのに、僕の同意も求めずに呼び出したという。――最悪のパターンを迎えるようだ。中学生の子供の言う事なんか、……何の権限もないんだ。


 悔しくて、涙が出そうになった。


 ――でも、小太りとは真逆ともいえる、もう一人のスマートな刑事さんは、


梨花りかちゃんを守りたい」と、……穏やかで優しく、和やかに言ってくれた。



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