第61話 鬼頭氏の能力検証(一)

長い協議の結果、高嶋技官が会場に再び姿を現した。


「鬼頭さん!協議の結果、先程の件を採用します。それでは髑髏一体毎に本人しか知らない物の存在を確認し会場の皆様にお伝え下さい」


「承知致しました。私が髑髏と会話し、その内容を全て復唱しますから、録音とメモをとって下さい。

勿論私は、髑髏から聞き取った事のみ伝えますから宜しくお願い致します」


水槽に3個の髑髏が沈められ、機器の取り付け調整等を二人の担当者の手で準備が行なわれた。


「それでは検証実験に入ります。録音等、準備はよろしいですか?」

私は、高嶋技官の了承を得て器具を使い髑髏に呼びかけた。


「皆さん聞えますか?鬼頭です。先刻、色々な機器装置を使い検証をしたが、殆んど皆様との会話に付いて解明出来ず疑問の残る結果となりました。今一度別の方法で、疑問点を解明する事にしたので宜しく御願いします」


答 荒木

「よし分かった。荒木だが何でも聞いてくれ」


答 佐川

「今度はどのようにして調べるのですか?」


答 富永

「冨永です。分かりました。協力しますよ、何でも聞いてください」


問 鬼頭

「協力有難う御座います。それでは皆さんに同じ質問ですが、貴方達しか知らない事、例えば人名、品物、書籍等、特定な物があれば教えて下さい。それらを聞き取り確認するので」


答 荒木

「俺しか知らない品物か。有ったかな?おお、有ったぞ!俺の家は昔のままで、現在も使用しているのか?もしそのままなら、奥座敷の神棚手前左上欄間下の『ナゲシ板』内側に、東播銀行小野支店取引の預金証書額面15万円と久子受け取りの手紙を隠している。銀行には、この預金に付いて通信不要の手続きをしているので妻の桂子は知らないと思うが、俺が死んだ後、遺族が受け取り手続きをして解約若しくは名義変更をしていると思うよ。いずれにせよその場所に書類は有ると思うから確認してくれ」

  

私は、この交信内容を一言一句大きい声で復唱し、皆様の記憶に務めました。


又、この内容確認の為担当署員は地元警察に検証内容を伝え、確認作業に当らせ連絡を待つ事になった。


問 鬼頭

「佐川さんは、如何でしょうか?何か有りますか?」


答 佐川

「そうだな。色々有るよ、自分の故郷は善通寺市だが、善通寺の山門の落書が今も当時の状態で残っているかな?日頃遊んだ森の中に大きな山桃の木が三本有り、中学生の頃、中央の木に自分の名前を刻みました。字の太さは10cm角位、『佐川』と残っているはずです。それと小学生の頃迄持ち遊んだ想い出の宝物を、この木の南側根元に埋めています。品物はコマ、ビー玉、剣玉等で必ず有るはずだから調べて下さい」


問 鬼頭

「分かりました。今伝えましたから直ぐに善通寺市警察に検証の依頼をされるでしょう」 


答 佐川

「ありがとうございます」


「冨永さんは、どうですか?何か有りますか?」


答 富永

「はい!私にも、色々有ります。何にしようかな?今も絶対残っているとすれば・・・あ、加古川中程にある『登竜灘』の大きな岩場に、仲良し三人組みの名前を彫りこんでいます。

名前は『栗田・二宮・富永』です。当時、石切り場で使う『タガネ』で深く掘ったので今も残って居るでしょう?それと私の部屋に、神戸一中入学時に写した写真の裏側に、私の誓いのメモを入れているので調べて下さい。内容は次のとおりです。


1 健康の維持、常に飲食に留意する事。

2 何でも相談出来る永遠の友を持とう。

3 親の恩を忘れず、生涯生きる事。

4 常に現実を視察、理想空想の世界を追求せぬ事。

昭和16年4月10日

私は誓います。 

以上 富永正治」

    

「分かりました。この件に付きましても調べさせて頂きます」


検証担当署員は、今迄聞き取った内容確認の為直ちに地元警察に検証依頼をして、事実確認の通報待ちで暫く待機する事となった。

  

私、鬼頭はこの待ち時間を利用して、水野捜査課長の許可を受け、今迄伝えていない(遺族犯人等)の近況を各々髑髏に伝えた。


この時間会場では、何とか其処にある髑髏と会話出来ないか?各署員が交互に器具を使い再挑戦を試みるものの全ての人々は応答不可能の様子であった。


このような雰囲気を吹っ飛ばしたのは電話のベルの音と、受話器を耳にした捜査官が交信する大きな声であった。

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