第39話 脱走兵 佐川清正



駅前は、各班長の名前を呼ぶ大きな声で騒然となり、短時間に60名の人選を行い、隊長以下、66名を6班に分け、次に掲げた場所を重点に捜索される事となった。


1 演習場周辺の民家、及び農作業小屋、田圃の藁ぐろ。

2 演習場内、特に病院付近、及び演習場に入る各道路。

3 演習場近くの国鉄駅に行き佐川候補生の人相を伝え列車利用をしたかの確認。

4 村人に『青野ヶ原駅』の電話番号を知らせ、通報の依頼をする事。


以上、これ以外に捜索する所はあるかね?


「いえ、充分かと思います」

と三村軍曹は答えた。



「各班長集まれ!本官は、現在地『青野ヶ原駅』前にて待機する。異常があれば即連絡をせよ、捜索内容次第では、至急憲兵隊に知らせる必要があるので、先程の個所を調べて状況を最寄りの電話、又は伝令等で知らせてくれ。以上」


各班は効率良く捜索が出来るよう、人員及び捜索区域を細分化し、グループ毎に出発して行った。


三村軍曹は、第二班長として病院周辺を担当し、9名の部下と捜索に当たり、先ず病院周辺を詳しく調べ、そこから積雪の台地を昨夜とは逆に広い原野を北方に進み、大きな樹木の根元等を捜索又原野に点在していた『野井戸』も二ヶ所を調べさせ、氷の状態を確認させ報告を待った。


井戸を調べた隊員が「井戸の氷の状態、異状無し!」と答が返ってきたので、全ての捜索内容を病院の電話で隊長に報告後、隊員を引率して帰ってきた。


この時刻になるとあらゆる捜索隊から通報が入り、最後の通報を受け取った隊長は、姫路部隊連隊長及び憲兵隊に仔細連絡、以後連隊長の指示を得る為、今しばらく駅前仮設テントで待機された。


連絡を受けた憲兵隊の動きは速く、佐川候補生の人相写真と服装を本籍地始め、在籍していた大学周辺の警察及び捜査機関や幹線駅に連絡、見付け次第「脱走兵」として保護もしくは逮捕、直ちに通報するよう指示を出した。


本格的捜索に入ったが数日過ぎても手掛かりは得られず、この間教育隊では特別の調査も実施され、特に親しい友人達から詳しい調書を取り種々検討した結果、昨年11月の金銭盗難事件で相当なダメージを受け、心身共に衰弱し思想的に「将来を悲観しての脱走」と断定されたのである。


罪名は「官給品横領罪・職務離脱」であった。

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