第38話 佐川候補生 捜索




佐川候補生を殺害した三村軍曹はその場を速やかに離れ、皆の待つ第二小隊に帰って来て、隊長の指示待ちの時間を利用して隊員を集め焚火で暖を取りながら、過去の戦闘訓話等で時間を費やしていた。


しかし余りにも佐川伝令の帰りが遅いので、第一小隊に連絡を取り、午前3時、第三計画の訓練が実施される事となり『千代の墓』あたりから打ち上げられる照明弾を頼りに、雪の降りしきる中、部隊は移動した。


第三計画は『千代の墓』に全員集合以後、一般道路を利用しての夜間行軍、あくまでも敵前を想定しての訓練だったので、静粛に行なわれ、このような訓練が明け方迄続けられ『青野ヶ原駅前』に全員集合したのは、午前6時10分だった。


個人点呼及び装備の点検が実施され、そこで初めて佐川候補生の不在が判明した。


教育隊長は最後に別れた三村軍曹の話を基に、緊急捜索会議が開かれ、部下思いの教育隊長は三村軍曹に「軍曹、最後は彼とどこで別れた?その時の様子を話してくれ」と仔細を求めた。


「はい、隊長!私はこの雪だから、口で言っても初めての隊員には分からないと思い、病院近くまで同行してそこで近道を教えて別れました。時間はたしか午前2時15分頃でした」


「そうか!その時の佐川候補生の体調に気に掛かった点はなかったか?そこから駅まで一本道以外に迷う所はあるかな?約4時間経過しているから、ちょっと心配だね!どこかに倒れているのではないか?」


「体調は外見上、変わったところは有りませんでした。地理に不安な処はありますが、まず迷う事は無いと思います、ただその時は大雪でしたので」




「よしわかった。おい!丸山准尉!部下を連れて病院を訪ねてくれ、今不在でも後程訪ねて来る可能性もあるので、一応青野ヶ原駅の電話番号を病院の関係者に知らせて置くように」


「は!丸山准尉了解!直ぐに現地に赴き、捜索の手配を行ないます」


「それでは汽車の出発の時刻も迫ってきたので、全員による捜索は必要ない!各班、元気な隊員を十五名程選び捜索に当らしてくれ。尚先発隊の指揮は東野中尉が執り、帰隊後『連隊長・大隊長・及び憲兵隊』に通報、逐次、現地での捜索状況をお知らせする旨、伝えてくれ。以上」


「はい!東野中尉了解!直ちに帰隊して関係者に状況報告いたします」

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